ハロウィンの日じゃないけれど





放課後。
もちろん部活になんて入っていない俺は、どんよりと灰色な雲の下、必死に自転車をこいでいた。
すでに一雨去った後でアスファルトの道は大小様々な水溜りでまだら模様になっていた。
雨がやんだ隙を見て学校を飛び出してきたのだが空気が明らかに湿ってきている。
というか顔で水滴がはじけたような気がするが俺は気づかない振りでペダルに体重をかける。
目標はびしょぬれになる前に家に帰ることだ。

力をこめてペダルを回したとたん、ぐん、と自転車が沈み込んだ。

「えっ!?」

久々にきたお呼び出し。
せめて、せめて自転車だけは置いていかせて!!
という俺の悲鳴はごぽごぽとくぐもった水音にかきけされた。

自転車に乗ったままのスタツアは大変危険ですのでおやめください。

脳内アナウンスがピンポンパンポンと流れて勢いよく水面に放り出された。

「ぎゃあああ!!」
眞王廟の噴水から飛び出した自転車(に乗った俺)は宙を舞い、出迎えにきてくれていた名付け親を飛び越し、地面を跳ね、ずざざざとドリフトを決めて停止した。

「じゅ、十点!」

人生初ドリフト、もう絶対やんねえ!
なるほど、脳内アナウンスのお姉さん。自転車スタツアはこんな危険な目に合うんですね。

宙を飛んだ自転車で連想したのだろう。
名付け親がぽかん、と口を開けアルファベット二文字をつぶやいた。





「うわ!なに!?」
呼び出しも唐突なら送り返されるのも唐突だ。
メイドさんのぶちまけてしまった花瓶の水たまりに踝をつかまれずぷずぷと引きずり込まれる。
俺は慣れたけど、水深1cm位の水溜りに引き込まれる少年の姿って第三者からみるとホラーなんじゃないかな。
とかいっている間に腰まで引きずり込まれた。
うーん、水溜り版貞子。
ますますホラーな気がしてきたぞ、と一緒にいたコンラッドを見る。

「いってらっしゃい、陛下」

俺の名付け親は寂しそう、っていうか困ったように微笑んでいた。
そんな顔をするぐらいなら行かないでください、ぐらいはいってみたらどうだろうか。
そんなことをいわれても突然襲ってくるスタツアは、俺にはどうにもできないのだが。

こんなところで人を困らせたりしないやつだ、まあ無理だろう、とひとつため息をついてコンラッドの襟元を掴んで自分のほうに引き寄せた。
思い浮かぶのはアルファベット二文字。
映画のタイトル。
おでこだっけ、胸だっけ。
どっちでもいいや、と二分の一の確率に頼ってコンラッドの額に人差し指を突きつける。

それを待っていたかのように今度こそ俺は水の中に引きずり込まれスタツア地球直帰コースへ。

あ、自転車忘れた。



水溜りの前で立ちつくしたままのコンラッドは自身の額をおさえた。
「なんだか今生の別れみたいですよ、ユーリ」


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The Extra Terrestrialです。
(ぶっちゃけるとETですね)
空とぶ自転車。
番外編か何かが幼心にすごく怖くてですね、学校の授業で観賞会をするまでホラー映画だと信じてうたがってなかったです。

だってETの仲間が犬の頭とアナウンサーのお姉さんのの頭を取り替えてた!
この場面しか覚えてないけど怖い。

角川文庫の表紙の自転車に目がいってしょうがないんですがあれは陛下が自転車ごとスタツアってきたの、かな?

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