おやつのじかんだよ





「渋谷それ美味しい?」

ぱくり、むぐむぐ。ごっくん。

「うん、さっすがエーフェ」

もぐもぐと優雅にフォークを操っていたヴォルフラムもこくこくとうなずく。
どうやら元王子殿下も納得の味だったようだ。

「村田のは?」
「んーこっちも美味しいよ?」
「グレタのケーキもおいしーよ!」

村田は頬を緩め、グレタも頬にクリームをくっつけてにっこり笑った。
くすくす笑いながらグレタの頬のクリームを拭ったのはコンラッドだ。

ケーキは二種類。有利とヴォルフラムが食べている果物たっぷりタルトと村田とグレタとコンラッドの食べているふわふわクリームと苺のコントラストがまぶしいショートケーキだ。

「そっちも美味しいのかー」
「行儀が悪い!」
「いたっ」

そろりとフォークをのばした村田の腕をペシリとはたいたて、いたずらっぽく有利は笑って自分の食べていたケーキの皿を村田にまわした。

「ほらっ、」
「わーい」

じゃあ僕も、と当然のように自分の食べていたケーキの皿を有利にのほうにおしやって村田は有利の皿を受け取った。

「わーすごい。クリーム濃厚」
「あ、渋谷。てっぺんの苺はたべないでよね!」
「なんで!?タルトに果物たくさんあるだろ?」
「ショートケーキの苺は別格だよ」
「先に食べとけよー・・・」


「…なにをやっているんだ?お前たち」
ヴォルフラムが首をかしげた。


素直に驚きの声をあげたのは有利で、首をかしげ返したのは村田だ。

「えっ」
「何って」
「「半分こ?」」
そして、息ぴったりだ。
ヴォルフラムの眉間にしわがよる。

えっと、だからさ、と頬を掻きながら有利は口を開いた。

「俺は村田の食べたケーキの味が知りたかったし、村田は俺の食べてるケーキが食べたかった」
「だから取り替えっこ、半分こ」
「もうひとつ厨房に頼めばいいんじゃないのか?」
「いや、それだとお腹いっぱいになるしケーキ二個も食べるのは流石にね・・・」
「じゃあ残せばいい」

きっぱりと言い切った金髪のお坊っちゃまに異世界育ちの双黒二人は黙って顔を見合わせた。

「そっか、こいつ元プリ」
「よくも悪くも王子様かー。美子さんの前でケーキなんて残したら大変なことになる気がするけどなー」
「うん。作ってくれた人の労力を考えなさい!、って。ていうか、そもそもこっちに半分この概念がないとか?コンラッド?」
「いや、ありますよ半分こ。非常に不本意ながらヨザックとしたことがありますし、グウェンダルがこっそりお菓子を分けてくれたことも」
「やるねぇ、フォンヴォルテール卿!」
「素敵なおにいちゃんだなあ」
「グレタもしたことあるよー半分こ!お菓子じゃないけど、旅をしているときにヒューブとしたの」
と、グレタは小さな手でパンを割る仕草をしてみせた。

こんなに小さい子もしているのに!
四対の目がヴォルフラムを見つめた。
ヴォルフラムのこめかみに青筋が浮かび上がる。

「だ、第一他人が口をつけたものだろう!?」

「何言ってるんだいフォンビーレフェルト卿!極端な話、他人が口をつけたものを食べることができる、ということが仲が良いことのステータスなんじゃないか」
「す、すてーたす?」
すてーたすとはなんだという台詞は村田にさえぎられた。
「そうだよー。君から見るといささか庶民的すぎるのかもしれないけれど、半分こ。自分のものをわけあうってのは仲の良い証というか、信頼しているというか」
まあ、口つけなくても半分こはできるんだけどね。
「そうそう、俺もコンラッドとよくやるし」

「「えっ」」

大賢者さまと婚約者殿の声のユニゾン。

「だって俺たち仲良いしー。こう、城下におりたときひとつの焼き菓子半分こーとかさ。流石に城とかではしないけどさ」

ギュンターの前でなんて特に恐ろしくてできないもんな、

とのたまう陛下はきっと周囲の気温が一、二度下がったことに気づいていない。
親友の眼鏡が白く光っていることにも気がついていないだろう。
きっと、婚約者の青筋がくっきりと濃くなったことにも。

「いやだなぁ渋谷、それきっと」

毒味だよ。

「そうだぞユーリ。お前はへなちょことはいえ魔王なんだ」

そしてコンラッドはお前の護衛だろう。

「えっ、いや、でもさ!」



ぎゃいぎゃいやりだした少年組を後目に魔王陛下の愛娘は魔王陛下の護衛に紅茶のおかわりをいれてもらっていた。

「はいグレタ、熱いから気をつけて」
「ありがとう」

両手でカップを包むようにもったグレタは上がる湯気と甘い匂いに笑みを浮かべると、それから湯気を通してコンラッドの皿をみた。
お皿の上には半分ほど食べられたケーキ。
白と赤の対比が眩しいそれ。
納得がいったというようにグレタはうんうん頷いた。

「そっかぁ」
「ん?」
「だからコンラッドはタルトじゃないんでしょう?」
にっこり笑ったグレタの言葉にコンラッドは人差し指をたて、同じく笑みをつくった自分の唇に押し当てた。






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「おやつのじかん」で「真ん中から半分こ」っていうとまっさきにでてくるのはアップルパイです。
(わかる人いるかな?)



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