拝啓 兄上様

※ルッテンベルクの獅子と子猫ユーリ
眞魔国ベースの微妙なパラレル




血盟城にもうけられたフォンヴォルテール卿の一室。
執務の息抜きに趣味の編みぐるみ製作に勤しんでいたグウェンダルは扉の開く音を聴いて顔をあげた。
扉の隙間からするりと入りこみ、こちらへ向かってのっそり歩いてくるのはここにいるはずのない動物。
百獣の王を冠する肉食獣。
ふさふさと豊かな鬣はダークブラウン、銀の星が散る茶色の瞳は理性を宿している。
右目の上、人間でいう眉の辺りに刀傷があった。
ウェラー卿コンラート、種違いの彼の兄弟だ。

10年前にふらりと姿を消したきり一度も姿を現さなかった弟。
弟はなにか、灰色っぽい物体をくわえているようだった。

コンラートはグウェンの前までやってくると灰色っぽい物体を床に下ろし、その物体を前足の間に抱え込むようにしてその場にと身を伏せ口を開いた。

半獣も人と同じように口を使わないと話せないというのに、声帯から音を出しているというよりは頭のなかに直接響くように喋るのだ。
頭に響いてくるこの声に頭の中を覗かれているようで幼い頃はどうにも苦手だった。
コンラートの父親が苦手だったのは半獣ということよりも、むしろ獣姿のときの響くような声によるものだったのではと今になって思うようになった。
だから、自分の前では義父は人間の姿をとっていたことが多かったように思う。
苦手だった響いてくる声は、コンラートのおかげですぐ気にならなくなったのだが。
鬣もはえていない小さな弟が「あにうえ、あにうえ」とコロコロじゃれついてくるのは好ましかったし、なにより人間姿のコンラートも獣の形のコンラートも自分の弟なのだ。
可愛くないはずがない。

しかしまわりはそうは思わなかった。
半獣とはいえコンラートも魔王陛下の息子なのだ。
それなのに、貴族達はコンラートの姿をみては眉をひそめ、嘲笑い、影でこそこそと言い合った。
あげくのはてに、先のシマロンとの戦の際には厄介払いとでもいうように最前線においやった。
肉食獣の牙が、爪が、敵兵を裂いていく姿は眞魔国の兵に勇気を与え、尊敬の念を抱かせたが戦場から帰還して英雄と呼ばれはじめた弟のことを考えるといまだに沸々と沸いてくるものがある。
さんざん混血だと卑下してきたもの達が今更なんだ、と。
最初の頃は鎧すら与えられなかった、身一つで眞魔国の為に死ねと国は半獣達を送り出したのだ。
仕方なしにコンラートは、半獣達は獣の形をとって戦に臨んだ。
皮肉にもその姿が英雄視されるようになったのだが。
爪と牙で敵を屠るのはどれほど苦痛だっただろう。
見も心も疲弊しきったコンラートのもとに、終戦の知らせと共に運ばれてきたのは親友の悲報。
彼女の死が最後の一押しとなったのか、毎日を鬱々と過ごしていたコンラートはある日突然獣の形をとってふらりとでていき、そしてそれっきり戻ってこなかった。


今のいままで。


「グウェン」
例の頭に響く声だ。
久しく聞いてなかったこの響きは、グウェンダルを切ないような懐かしいような気分にさせた。

「えっと・・・久しぶり」

「こ、コンラート・・・・・・!い、いままで何処に」「めぅ」


グウェンダルの言葉にかぶさるように鳴き声が響いた。
咄嗟にグウェンダルは室内に視線を巡らせた。
しかし何もいない。
当たり前だ、保護していた子猫たんはすべて、里子に貰われていったのだ。
つい先日のことだ。

「めぇ、めぇ」

ではこの鳴き声はどこかきこえてくるのだろう。
視線をおろし、おろして、おろし、コンラートの前足に目を止めた。
ひょん、とコンラートの尻尾が揺れる。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

しばらく見つめあった一人と一匹だが、やがてコンラートが降参、とでもいうように前足をあげた。

「めぇ!」

自分を押さえつけついた前足から解放された灰色っぽい物体は、憤慨したようにコンラートに向かって一声あげるとふんふんと好奇心いっぱいにグウェンダルの私室の探索はじめた。

「こら」

動き回る灰色っぽい物体を、再度前足で押さえつけたコンラートは、その物体を手繰り寄せ。
べろん。

「み゛っ!!」

毛繕いをはじめた。
うごうごと身をよじる物体にかまわず鼻先でころんと仰向けにさせると、両前足を突っ張り抵抗する灰色っぽい物体をぺろぺろと綺麗にしていく。

毛繕いによって綺麗になった灰色の物体は鳴き声で大体検討はついていたが、子猫だった。
子猫だった、のだが。
からん、とグウェンダルの手から編み棒が落ちた。

綺麗になった子猫の首をくわえたコンラートはグウェンダルに向かって子猫を掲げるようにした。
おそるおそる子猫を受け取ったグウェンダルは静かに驚愕の声をあげた。

「黒・・・!」

きょとん、と好奇心いっぱいにグウェンダルを見つめる瞳は黒曜石。
抱き上げているふわふわの毛並みもまた月のない夜の色をしていた。
子猫はこの国で一番高貴な色をその身に宿していたのだ。

「グウェン、頼みがあるんだ」

いやに真剣なコンラートの声。

「この子を、ユーリを。」

保護してはくれないか。



グウェンダルはコンラートを見つめ、ユーリと呼ばれた子猫もまた不思議そうにコンラートを見つめた。


「子供ができたんだ」
と、云われなくてよかった。
長男はこっそりとそう思った。

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最近ずっと黒猫ユーリを毛繕いしている獅子次男がみたいと言ってる気がする。
ので、自給自足をしてみたらわりとシリアスに(あれっ?)
ほのぼのが書きたかった、んだけどなあ・・・

続くのかわからないのでなんとなーくな説明を。

半獣は十二国記の半獣みたいな感じです。
人間と魔族と半獣がいて、半獣は半分動物だから気ままに暮らすのさ、と国を持たない民族で、その事でわりと嫌われたり蔑まれたり。眞魔国だけでなくシマロンとかその他の国にも半獣は色々散らばっているので戦争のときは「寝返るのでは」とか「この戦の混乱に乗じて国を作ろうと反乱するのでは」とかさんざんいわれまくった。

眞魔国は戦に勝ったけど、それでも被害は大きかったとかなんとかでグウェンダルが宰相の座からシュトッフェルを追い出した。
コンラッド出奔→どこかの森をふらふら→毎日をやけっぱちに怠惰に過ごすコンラッドを子猫ユーリが見つける→ 毎日なにかと構いにいく子猫ユーリ→なんやかんやあって仲良しに(村田の健ちゃん「この泥棒猫」ルッテンベルクの獅子「お義母さま・・・!」)

→一方、血盟城を追い出され毎日をぎりぎりと歯軋りしながら過ごすシュトッフェル、双黒の子供(人の姿をとったユーリ)を見つける→この子供を政治利用しよう、高貴な双黒だし→つかまえる→ゆーちゃん隙をみて獣の形をとって逃げだす→命からがらコンラッドのもとへ→コンラッド、過保護からスーパー過保護に進化を遂げる(ちゃらららっちゃらー)→コンラッド、ゆーちゃんが人間の言葉を話せなくなり、人間の姿をとれなくなっていることに気づく→もうこれは安全な所で保護してもらって人間怖くないよーということを理解してもらわなければ→安心と信頼兄上を頼ろう!←イマココ!

大体こんな流れがありました。(私の頭の中では)




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