水曜、3限に2





もともと興味がある分野ではあるし、内容が嫌いというわけではない。

教師の声に耳を傾けているうちに、あれほど耳に付いた話し声やざわめきも気にならなくなっていく。

隣から聞こえるペンを走らせる音が不思議と心地よかった。


「…………」
「…………」
「――――」
「――――」
「……ふ、」


あくびをかみ殺すと、なにやら隣から視線を感じた。

顔を向けると達海がにやにやしながらこちらを見つめている。

悪いことを考えているときの、あの顔だ。


「……なに?」
「お前、ほんっとに集中切れるの早いよな」
「そんなことないよ」
「10分経ってないんじゃねえの?」


黒板の上の時計を指されるが、たしかに長針はあまり進んでいないように思える。


「タッツミー、真剣な顔してると思ったらそんなこと計ってたの」
「だって集中してるお前の顔なんか貴重だろ」
「ボクはいつだって真面目だよ」
「ピッチの上と同じ真面目さだな」


もう、と眉をひそめると達海はしたり顔で笑う。

書類の裏紙には書きなぐりではあるが、板書がきちんと写されていた。


「タッツミーこそ、よく飽きないね」
「まーね。聞いてるだけだけど意外に楽しいし」
「へえ」
「隣でめずらしいもん見れたし」
「なんだ、そんなにボクのこと見てくれてたの?」
「はっ、言ってろ」


ふと、周囲がざわつき始める。

壇上の教師が事務連絡を告げるのを見計らったように、生徒が次々に立ち上がった。

ああ、終わったのかと呟く達海の言葉にジーノは顔を上げる。

最後のまとめを聞いていなかっただろうとにやにやする達海に、大丈夫だよと口をとがらせた。


「さて、行くか」
「うん。ああ、タッツミーお昼どうするの」


荷物をまとめてドアに向かう背中に尋ねれば、ひらひらと手をあげられる。


「松ちゃんと食堂デート」
「なんだ、誘おうと思ったのに」
「お前はそれより、今日の練習遅れんなよ」
「はーい」


廊下に出て伸びをすると、聞いてんのかと振り向く達海に睨まれる。

教室から出てくる人波に追い抜かされながらも、立ち止まるジーノにならって達海も歩を止める。


「なんだ、行かねーの?」
「うーん。次もこの教室なんだよね」
「…お前それで昼飯誘ってくるなよ」
「ははっ」


笑ってみせると達海は呆れたように肩をすくめるが、歩き出そうとして「あ」と立ち止まる。


「今日って水曜だっけ?」
「うん」
「そんで、今の授業は…3限か」
「そうだね」
「水曜の3限ね、了解。お前次も席とっとけよ」
「……え、タッツミー来週もでるの?」


二人の間を何人かが大声で話しながら横切っていく。

にひーと意地の悪い笑みを浮かべ、達海は「まあね」と頷いた。


「だってお前サボるかもしんないし」
「…そんなに信用ないかな」
「それに俺の方がテストでいい点とったら面白いじゃん」
「はは、負けないよ」
「にひひ」


達海がさて、と書類を抱え直す。


「じゃ、練習で。あと来週またな」
「うん、後ろの席取って待ってるよ」


手を上げると振り返される薄い手のひら。

階段を降りる達海の背中を見送って、ジーノは鼻唄まじりに教室へと足を向けた。


待ち合わせは大学北棟、4階の大教室。

水曜3限、最後列の指定席で。



fin.


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