焚いてみる?



「……なんか変えた?」

試合のDVDに集中していた達海は、ふと気づいたようにジーノを振り返った。
そこが定位置となりつつあるベッドの端に腰掛けていたジーノは二、三度目を瞬かせて雑誌をとじる。

「うん、ファンの子にお香をもらったんだけど……やっぱり違う?」
「うー、ん」

上半身をねじってジーノを眺めていた達海が顎を上げる。
すん、と空気に漂う香りに集中するように鼻を高くして目を閉じる。
何かを待つようにも受け取れる姿勢にジーノが思わず口元に弧を浮かべているとパチリと開かれる色素の薄い緩んだ瞳。

「…なにへらへらしてんの」
「してないよ、心外だなあ」
「ふうん?ああ、匂いな。線香くさいっていうか、ばあちゃんの家みたいだな」
「…ば…?」
「うん、田舎のばあちゃんの家」
「……そう」

(もう、焚くのやめよう)
少し前のときめきはどこへやら、ジーノは肩を落としてため息をひとつ。
その反応を不思議がるように口元をアヒルのようにとがらせた達海は首を傾げた。

「懐かしい感じがして俺は好きだけどな」
「……そう?」
「ははっ、今日は百面相だな。めずらしー」

ジーノの表情に吹き出して満足したようにテレビへと向き直る達海の背中。
確かに今日は表情筋が忙しいねと内心で呟きながらジーノは自分の頬に手をあてた。
(さて、明日はどうしようか)

fin.



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