いっそ両方



練習後の監督部屋でのいつもの風景。監督である達海はDVDを観たりテーブルに広げた用紙に作戦を記していったりと忙しい。

「まあ人様のこと言えた義理じゃねーけど、前に対戦したときと同じ布陣で行けそうだな」
「ふうん?」
「弱点が同じなんだもん。左の連携悪いって誰か言ってやればいいのにな。ま、そこを突く作戦立ててる俺が言うことでもないけどね」
「ふふ、そうだね」

機嫌がいいのか、めずらしく達海はペンを動かしながらベッドでくつろぐジーノに話しかける。対するジーノも雑誌のページを繰りながら相槌を打ってはいるものの、その口元は緩やかに弧を描いている。時折顔を上げては眉根を寄せる達海の様子に目をやり、また雑誌へと視線を戻す。そんなやりとりがゆるゆると続いていた。

「……なんかお前、今日は機嫌いいみたいだな」
「そうかな」
「そうだろ。じゃなきゃ雑誌見てニヤニヤしてたら変な奴だろ」
「さあ、ボクよりタッツミーの方が上機嫌に見えるけどね?」
「ふーん?あ、それより控えのメンバーどうすっかな。経験も積ませたいし、ちょっと変えるかなー」

ジーノは目を閉じて達海の声に耳をすませた。聞き慣れた声音と音量を絞ったテレビから小さく流れる歓声が部屋に漂って、いつものように押し黙った空気がほんの少し華やいでいるようにすら感じられる。

(うーん)

ちらりと達海に目をやれば、うんうん唸りながら試合のメンバーに悩んでいるらしい。めずらしく饒舌な声を聞いているのは耳の幸せではあるのだが、そろそろその良く喋る口を塞いでしまいたいという衝動が芽生えている。

(どうしようかなぁ)

そんなことを知る由もなくブツブツと戦略を呟きながら口元にペンを当てて考え込む達海に、ジーノは困ったように笑う。それに気付いて顔を上げる達海が口元をゆがめてジーノを見遣った。

「…お前はホントにさっきからなにをニヤニヤしてんの」
「ははっ、王子の苦悩ってやつだよタッツミー」
「ふうん。大変だな」

(どうしようか、ねぇ)

そうして何度目かのやり取りをゆるりとかわして、いまだ耳の幸せに傾くジーノの天秤がゆらゆらと揺れ始めていた。


which?


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