タツタツ





!ジノタツ前提のタツタツです
・試合中のギラギラタッツミーと寝ぼけタッツミーがいます。
・吉田しか得をしない内容です。



「あれ、こんな時間にお客さんかい?」
「お前な、じゃあ離れろよ」
「……は?」

 ベッドの上のジーノが涼しい笑顔で振り返った。
 その下で組み敷かれている達海が呆れたような声をあげる。
 入り口で立ち尽くしたまま、達海はその光景を見つめていた。



「あー、くっそ、どこ置いたっけな」

 普通の練習日とはいえ実践を想定したETU内での紅白戦。
 試したい作戦や確認しておきたい連携をメモした用紙を忘れた達海は、サブ組への連絡を松原に託しハーフタイム中にクラブハウスへと戻って来た。
 たしか昨日、いつものようにDVDを観ながらメモを取ったはずだ。
 大体は頭に入っているものの、やはり手元にないと修正点を追記できない。

「……あ」

 昨夜の記憶が曖昧になっている原因の人物に思い至り、達海は顔をしかめた。
 その考えを振り切るように頭を振って、廊下を進む。
 自室のドアノブを手に、そのままの勢いで部屋に足を踏み入れた。



「…どうなってんの?」

 そうして広がる目の前の光景に、達海は目を瞬かせた。
 悪い夢だろうかと目をこすって見るが、何度やっても変わりはしない。
 その代わりに、目当てのものをベッド脇に見つけてかがみこむ。

「お、これこれ」

 今日のメニューで使う作戦を記した紙を手に取り、とりあえずは一安心。
 カラクリはいまだ分からないが、とりあえずこれさえあればグラウンドに戻り指示が出せる。
 振り返ってノブに手をかけてドアを引くと、真っ暗な廊下が広がっていた。
 わずかに非常用の明かりがぼんやりと浮かんでいるなんて、まるで夜中だ。
 いつもの練習中なのに、と首を傾げる達海の背中に咎めるような声が飛ぶ。

「ちょっと、それ明日のメニューで使うんだけど」
「……タッツミー、もう少し他に言うことはないのかい」

 ようやく上半身を起こしたベッドの上の達海が目をこすりながらも睨みつけてくる。

「…明日?俺は今これを使いたいんだけど」
「そーなの?でもそれ持っていかれたら俺が今日がんばってた意味がないもん」

 半分目が閉じかけてはいるものの、睡魔に飲まれるものかとベッドの上の達海は口を尖らせる。
 ようやく頭の中でひとつの可能性に辿りつく。
 しかしそんなわけはないと、立ち尽くす達海は眉根をよせる。
 けれどそれしかこの状態を言い表すことはできそうにもない。

「……ここ、昨日の俺の部屋か」

 昨日というよりは日付が変わったばかりの今日。つまりはほんの数時間前。
 ベッドの上にあぐらをかく達海は寝巻用の黒いパーカー姿。
 その隣のジーノも少し前に見たシャツ姿。
 袖のボタンをくつろげて捲っているところまで覚えているのが憎たらしい。

「めんどくせえな」

 廊下が暗闇だったことも頷ける。
 場違いなのは自分の方なのだろう。

「おもしろいね、そっちのタッツミーは明日のタッツミーなの?」
「ジーノ、お前こそ楽しんでんだろ」
「そう?だって他人の空似じゃあるまいし。ボクらを見ても動じないしね」

 寝ぼけながらも睨む達海をあやすようにジーノは微笑む。
 状況を把握して一段落ついたと思ったら、だ。
 改めて部屋の光景を目にすると、達海は眩暈を起こしそうになった。

「自分のことだけど、傍から見たいもんじゃねーな」
「でも、昨日はこっち側にいたんじゃないの」

 数時間前のジーノはベッドの上から動きそうにない。
 そしてその隣の自分もそれをなんとも思っていない、ようだ。

「まあいーや、俺はさっさと帰りたいんだよ。どうしたもんかね」
「そうだね、とりあえずこっちの時間を進めてみるっていうのはどうかな」

 二人の達海を眺めながら、いつもの調子でジーノが提案をする。
 それは一番確実そうではあるのだが、ジーノの表情を察するにあまり納得したくはない。

「お前はほんっとに自分を貫くのな」
「ジーノらしいっちゃジーノらしいけどなー」
「ふふ、二人のタッツミーに見つめられるなんてそうそうない経験だね」

 大歓迎だけど、と付け足して頬笑みながらジーノは達海に視線をやった。

「どうする?」
「どうするって、面倒だけどそれしか思いつかねーもん」
「なんで明日の俺とジーノが話進めてんだよ、置いてくなよ」
「置いていってないよ、タッツミー」

 ああ、もう、限界。
 達海は手のひらで顔を覆いながらベッドに歩みより、見つめ合うジーノと達海を引き離した。

「ははっ、嫉妬しちゃった?」
「するかよ。……俺はいつもこんな扱い受けてるのか」
「ボクはそのつもりだけど」

 思わずジーノに詰め寄ってみるが、当の本人は涼しい顔で肩をすくめただけだった。
 こんな状態だというのに一人で楽しんでいるのが見てとれる。
 ぐいぐいとコートの裾をひかれていると思ったら、不機嫌そうな顔がこちらを見上げていた。

「おい、俺。なんだよ、結局どーすんの」
「だから、さっさとお前が寝ればいいんだよ」

 眠りに落ちればすべてが解決するとは言い難いが、ここが昨日だというならそれしか思いつかない。
 なにより目の前の自分には寝てもらわないと、心臓に悪い。

「そんなこと言われたって、俺もうちょい明日の確認したかったのに」
「さっきも徹夜はダメって言ったのに」
「うるせーなぁ」
「うるせーのはお前だよ、さっさと寝ろ」
「タッツミー、手伝おうか?」

 達海同士のやりとりを興味深そうに見つめていたジーノが挙手をする。
 やけににこやかなジーノを丁重にお断りして達海はいまだ話が見えていない昨日の達海に向き直る。

「寝ろ」
「やだ」
「寝ろって」
「やだよ」
「……俺って普段どうやって寝るんだっけ」
「ボクがやってることをすればいいんじゃないの」

 眩暈どころか、頭痛がする。
 こうしていつも寝る前にへんな意地を張るから、今朝も寝坊して有里に叱られたのだ。
 監督は王様とはたしかに自分で言ったが、こうも自分とジーノのやりとりを見せつけられると、まるでわがままな、

「お姫ィさん」
「んあ?」

 呼びかけにぼんやりとしながらも顔を上げた表情は明らかに不機嫌の色。
 その顔を見下ろしながら達海はほんの少し口角を上げた。
 鏡以外で自分の顔をまじまじと見つめるのは初めてのこと。
 目の下のクマを親指でなぞってやる。

「ほんっと眠くなると頭働かねーよな。だからもう寝ろ。んで無理だろうけど、早く起きろ」
「うるせーな、誰がおひーさんだよ」
「お前だよ。わがまま言ってばっかのお姫ィさま気取りじゃねーか」
「じゃあドクペ飲みたい。医務室にあるやつ持ってきて」
「あれは俺が練習後に飲むんだよ」
「同じだろー?」

 まだ何か言おうとする寝ぼけた自分と付き合う時間がもったいない。
 悪い夢でありますようにと頭の隅で思いながら、達海は開きかけたその口を自分のそれで塞いでやった。
 瞬間、目を見開いて茫然とする自分。
 目を合わせながら鼻もつまんでやろうかと自分に対して意地の悪いことを考えていると、口内をぬるりと動く何かに意識が引き戻される。

「……っ、!?」

 思わず自分を凝視すると、その目が余裕たっぷりといった風に笑っていた。
 慌ててやり返そうとするものの、取られた主導権はそう簡単に返ってはこない。
 上に下に逃げたと思ったら不意につかまって、絡まれて、吸われて、しまいには遊ばれているように歯列までなぞられた。
 意地を張って呼吸さえ忘れていたところで顔を離すと、にんまりと笑んだ顔がしまりなく見上げていた。

「はっ、俺の勝ちー」
「……お前」

 しかし、得意げな達海の上体がぐらんぐらんと揺れ始める。
 その背をジーノが受け止め、慣れた手つきでベッドへ横たえる。
 毛布をかけてやるとすぐに呑気な寝息が聞こえてきた。
 自分のことながら、なんとも単純。

「なるほどね」
「……なんだよ」

 達海が乱れた息を整えているところに、それまで様子をうかがっていたジーノがいやに真面目に頷いている。

「眠いときのタッツミーの方が、うまいんだ」
「…………」

 もう、勝手にほざいてろ。
 言い返そうとするより脱力感の方が勝った。

「それで、次はどうすりゃいいと思う」
「そうだね、まだ明日にはジャンプしそうにないね」

 ジーノは熟睡する達海の邪魔にならないように気遣いながらベッドから下りた。
 げっそりとしている達海と目を合わせる。

「タッツミーは、なにしたい?」
「……疲れた。俺も眠い」

 予想外の展開続きで疲れがどっと押し寄せてきていた。
 一切動じることのない目の前の男にも、すっかり毒気を抜かれてしまったような気がする。

「ふふ、じゃあ一緒に眠るといいよ」
「お前は、帰んの?」

 上着に袖を通す姿に目をやると、ジーノはそこで今日はじめて動きを止めた。
 まじまじと達海をみつめて、ああと頷く。

「そうだよ。いつもタッツミーが寝てから帰るんだ」
「へー。そりゃ見たことねえわけだ」

 王子様が物音を立てずに身支度する横で、なにも知らずに眠りこける自分の頬を思わずつねってやりたくなった。
 視線をジーノに戻すが、達海は思わず背中を反らせた。

「なんだ、残念」

 勢いをつけて後ろへと反らした後頭部はいつの間にか回された腕に固定される。
 抜け目なく襟足から指が這い上がり髪を梳かれていく。
 縮んだ距離で顔を覗き込んでくるようにして、ジーノが笑う。

「お前は朝でも夜でも変わんねーのな」
「朝でも夜でもボクはボクだし、タッツミーもタッツミーだよ」

 達海はその言葉に苦笑いし、ジーノの髪を両手でわしゃわしゃと掻きまわしてやる。
 手の中の練習メニュー表が床を滑っていくのに気付いてしゃがみこむと、先回りした長い指がそれを取りあげてしまう。

「おお、ありがと」
「タッツミー」

 あー、はいはい。
 聞きなれた含みのある呼び声に肩をすくめる。
 ぺたんと床に腰を下ろして先ほど逃げたものを受け止めてやると、ジーノは満足そうに目元を緩めた。

「なにがおかしいんだよ」
「練習途中だったんでしょう?そんなときのタッツミーとキスできるなんて、貴重」
「ハッ、あっちのお前が嫉妬しそうだけどな」

 壁に背中を預けていると、ゆるゆるとした眠気に誘われる。
 前髪を梳くように遊ばれているからだろうか、疲れが出たのだろうか。
 ああ、でもこれで戻れるかもしれないなとぼんやり考える。

「タッツミー、ベッドに行く?」
「…平気。そうだ、ジーノ」
「なんだい」
「その紙、練習始まる前に渡しといて」

 俺に、と付け加えるとジーノは頷いたようだ。
 重くなる瞼をそのままに顔を俯かせると額に落ちる柔らかい感触。
 悔しくなるほどに安心するそれに意識がだんだんと遠くなって、いく。



 目を開けると、ジーノがいた。

「ああ、起きた?タッツミー」
「……おう」

 目を閉じたときと同じ体勢で向き合ってはいるものの、部屋の窓からは光が差し込んでいる。
 ジーノも私服ではなくユニフォーム姿だ。

「部屋に戻ったきり帰ってこないから、みんな心配していたよ」
「お前はしてないみたいな言い方だな」

 揚げ足を取るようにからかうと、ジーノは「もう」と苦笑する。
 夢だったような、幻だったような出来事がふと頭をよぎるが、とりあえずここはいつもの自分の居場所らしい。

「変わんないな、朝も夜も」

 いつもされている風にゆっくりとジーノの髪を指先で梳いてやると、目を瞬かせたジーノが表情をやわらげる。

「朝でも夜でもボクはボクだし、タッツミーもタッツミーだよ」

 渡し忘れていてごめんねと、見覚えのある紙が小さく差し出された。


fin.


:あとがきを少し:
タツタツっておいしいと思うんだ、でも若タツ書けない…と友人に嘆いたら
「『試合中のギラギラタッツ×いつものタッツ』とかは?」
と設定を授かり、妄想をねって頭がパーンとなった代物がこちらです。

出来はともかく書いててとても楽しかった!
広まれタツタツの輪!






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