しまった、と思ってももう後の祭り。
「傘…」
いつも飲んでいるお茶が切れたので、休憩中にコンビニで好物のミルクティーを買いに警察庁からすぐのコンビニに雨の中足を運んだ。
傘を入り口の傘立てに置いただけなのに、いざ購入して戻ってくればそこにあるはずの私の傘がなかった。
私の傘、というより警察庁に置いてある貸出の傘なのだが、まあただのビニール傘。それをまさかほんの少しの間で盗まれるとは思いもよらなかった。
店に入るときは柄物の傘が2本置いてあるだけなので、まあいいかと思った私もい……いや、盗んだ奴が一番悪いのだけど。珍しく苛々とする。
だけど傘がないと嘆いてもそれが戻ってくるわけもなく、ため息一つは雨音に掻き消され誰にも聞こえない。
梅雨が入りうんざりと雨が続く中、せっかく買いに来たらこんな仕打ちなんて、とさらにむかっ腹が来た。
店に入る前と同じ柄物の傘を見ながら、仕方ない、傘を買おうかなと店内へと踵を返すと、後ろからお嬢さん、と声が掛かった。
お嬢さん、なんて年でもないけどつい振り返れば紺色の傘を差すグレーのスーツの男性。
胸から上は傘の内側に隠れて見えないけれど、見覚えのあるスーツと革靴。
すっ、と傘が私に向かって差される。その方向には大好きなミルクティーの色をした髪の上司が微笑んでいた。
「よければ一緒に入っていきませんか?」
「それはそれは助かります」
久しぶりに会う人に顔が綻んでしまう。さっきまでの苛々は吹き飛んでいった。
私はいそいそと彼の傘にお邪魔して、二人で肩を寄せ合い、警察庁への道を戻った。