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「……ん?」


誰に問うわけでもなく、苗字名前は声を漏らした。
事の発端は机の引き出しを開ければ見慣れない小箱が置かれていたのを発見したことから。

誰かが彼女の机の中にそれをいれたのかーーーとしたら犯人は一人しかいない。相変わらずの缶詰状態の名前の前にはその人は姿を現していないのにいつのまに、と感嘆すらする。


忙しいのもあり、わざわざ中身をすぐに確認する必要がないな、と目当ての付箋を取るとそのまま引き出しを閉めた。
そんな出来事も頭の隅に追いやられた数日後、慌てたように同僚の風見が名前のもとを訪ねてきた。



「苗字さん、これ大至急確認お願い致します」

「私に?これ降谷さんの案件ですよね?」


そう言いながらも名前はクリップで挟まれた書類を確認する。先日のテロリストの立てこもり事件に関するまとめ。上司の降谷が無事に制圧した件だ。報告書は風見がまとめたようだが肝心の上司の判は押されていない。
この書類はあと1時間で提出しないといけないものだ。



「はい、降谷さんにはデータで確認してもらったんですが承認印を貰う時間がなくて」

「そのようですね」

「苗字さんに印鑑を預けていると仰ってたんですがご存知ですか?」

「……いえ?初耳なんですけど」


降谷の印鑑を勝手に使っていいということか。それなら彼の机の中にあるだろうと思って名前は席を立つ。



「あ」



そこで思い出した。数日前に私の机の中から出てきた小箱の存在を。


名前は再び椅子に腰掛けて引き出しを開ける。忙しすぎて乱雑になった引き出しの奥に追いやられた小箱。



「それは?」

「十中八九これでしょうね…」



風見の問いに呆れながら答え、箱を開けた。なんてことはないよく見かけるスタンプ式の判子。
かくいう名前も同じものを使っているが、名前の持つのは見た目がピンクのケース。彼から贈られたそれは白のケースだった。判子のキャップを開けると、降谷の字があった。

わざわざ小箱に入れなくてもよいものを、面倒なことをする人だ、と名前は呆れながら判を押そうとする。




「じゃあ、代わりに提出しておきますね」

「はい、お願いします。では」


風見はそう言い、礼を言うと足早に部屋を出ていった。名前はその背中を見送り、急いで書類の内容を頭の中に叩き込んで降谷の判を押す。










「先日の件の書類です。よろしくお願いします」



警備局をまとめる局長に書類を提出し、休憩スペースで一息入れようと名前は肩を回しながら自販機でコーヒーを買う。ふぅ、と人心地ついたところでポケットに入れた携帯が震える。携帯を取り出して画面を見れば公衆電話から。勿論、電話の相手が誰かはわかっているので、名前は躊躇うことなく電話に出る。




「はぁ……もしもし」

「第一声がため息か」

「いつも人が休憩しているときに上手く連絡してきますよね。どこかに盗聴器でも仕掛けてます?」

「そんなことをするか馬鹿。それよりーープレゼントは見てくれたか?」

「…まさかとは思いますが、そんなことで電話してきたんですか?」

「いつ気付くのか気になってだな。タイミングよく風見からデータが来たからそろそろ気付くかと思って」



名前は確信した。この人ははじめからわかっていた、と。彼女があの小箱を見つけたときに一度スルーして、存在を忘れてしまって、こうやって見計らっていたのかと。ため息がまた一つ。




「お忙しいのにわざわざこんなことで電話してくるとは……暇ですか?」

「お前の反応が見たかったんだよ」




くっくっ、と喉の奥で笑うような声に名前は缶コーヒーを握りしめた。このまま電話をたたっ切ってやろうかと思ったが、何か一言でも言わなければ、と思考錯誤する。




「私はまた変わったプロポーズだな、と思いましたがその真意は?」

「鋭いね。遅かれ早かれーーってとこだろ」

「…その時は夫婦別姓でお願いしますね。ややこしいんで」



「え?」という言葉に構わず名前は電話を切る。



「…降谷名前になる日はいつかしらね」


口元を綻ばせる名前はコーヒーを飲み干し、今頃は思わぬ返事に慌てている降谷の姿を思い浮かべながらゴミ箱に向かって空き缶を投げ入れた。


その後嬉々として仕事をこなす名前の姿があった。
そして以前よりも風見から降谷の印を頼まれることが増えたという。





150614
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