パンッと銃声が響き渡る。
数メートル以上離れた的の中心には綺麗に弾が入った。
警官になってはじめて銃を持ったとき、恐怖を感じたのが懐かしい。今じゃ当たり前のように携帯している。
慣れとは恐ろしい。
腕を構えて、引き金を引いた。発射の衝撃で肩がビリビリと震える。……これにはいつまでも慣れないな。
先程よりも中心からわずか反れてしまったのを見てイヤーマフを外すとハッとして振り返る。
音を遮断して集中していたので、気付かなかった。そこには降谷さんが立っていた。
「流石だな」
「恐れ入ります。なにか緊急の要件でもありましたか?」
胸ポケットに入れた携帯電話はバイブレーションモードにしている。射撃訓練中でもすぐに気付けるように。だが、今の今まで連絡はなかった。
「いや?久しぶりに君が射撃訓練をしていると聞いて見に来ただけさ」
「……そんなことをしてる暇、あるんですか?」
「此処の中ならある程度自由は、ね。というか僕が呼び出しを受けていてね。時間潰しにこっちに来た」
「呼び出し?珍しいですね」
「ああ、お陰でバイトを休む羽目になったよ。梓さん、怒ってるだろうな」
梓さん。ポアロで働く笑顔が可愛くて明るい女の子。苦笑いしながらそのバイト仲間を気遣う降谷さん。もやもやとした気持ちが私の中で渦巻く。
「梓さんと随分仲が良いんですね」
安室透の顔を私より知っているあの人が羨ましい。…私は全部知っておきたい、どの彼も。
クスりと笑う彼の顔は今は癪に触る。
「嫉妬、か」
「べ、別にそんなんじゃ」
「殆ど男社会の世界にいる君を心配する僕の気持ちも嫉妬かな」
「ど、ういうことですか」
「君はもっと自分の可愛さを自覚すべきだ。僕が睨みを効かせてなければ、君のような純粋な羊はすぐに食べられてしまうよ?」
舌でぺろっと口の端を舐める彼。その妖艶さに、私も釣られて笑う。
ぞくりと背中が、震える。
「ねぇ。食べられるほうだって、選ぶ権利があるのよ?」
彼にとってはまさかの言葉だろう。みるみる目をギョッとさせ、言葉を探している。
柵に掛けていたスーツのジャケットを取って、お先に失礼しますと笑って、その場から離れた。最後に見た彼の姿はまだ固まっていたので日頃の彼に対しての溜飲が下がったのだった。
降谷さんの嫉妬