DCshort | ナノ
「甘いものが食いたい」

「チョコレートならありますよ」


風見との任務を終え、戻る車の中、甘いものが食べたいと思い口に出せば風見がポケットからチョコレートを取り出したのでそれを貰い受ける。



「薔薇の形、なんて洒落てるな風見」


ビニールを剥がし口に放り込む。
糖分が身体に染み渡る。

 
「ああいやそれは…」

「それより君はチョコレートをまだ食事の代わりにしているのか」

「そういうわけでは。いつも苗字さんから貰っていて……」
 

まさかの名前に唖然とすると、風見はまたポケットからチョコレートを取り出した。今度は猫の顔が彫られたようなチョコレート。


「苗字から?」

「はい、こういう可愛らしいものとか貰ってしまって恥ずかしいんですが、有り難いです。さっきの降谷さんのように甘いものが突然欲しくなるときは特に」


もう一つどうぞ、と渡されたので有難く頂いた。


「ほー……そういえばチョコレート好きだよなあいつ」

「いつもデスクの上に置いてありますからね…」







ーーーー


定時通りに帰宅すれば、ふわふわとだしの匂いが漂ってきた。



「零、おかえり」


キッチンから顔を出し、おかえりと言われたのでただいまと返す。そういえば名前は非番だった。キッチンに入ると僕のエプロンを身につけた名前が鍋の中をかき混ぜている。



「夕食、親子丼だけどよかった?」

「あぁ、すまないな」

「良い葱が売ってたの」

「楽しみにしてるよ。あ、これ」


紙袋を名前に渡すと疑問符を浮かべながらも受け取った。中身を見るとぱぁぁと効果音が付きそうなくらい輝いた表情を浮かべて、ちくりと心に棘が刺さる。


「これ風見さん?」

「あぁ。いつものお礼だって」

「この間言ってたやつかなー。ドェルの新作のチョコミント」


事前に風見から聞いていなければ知らない店の名前。最近流行り始めたチョコレート専門店らしい。はじめはそこまでの知名度ではなかったが、今じゃ行列が出来て買うのも大変だという。

あれから話を聞いてみれば名前から差し入れと称してチョコレートを貰い、風見はそのお返しをする仲だという。なんならおすすめの店を教え合うとか。
そんなことを今まで知らなかったのだが、よくよく思い出せばやたらと洒落たチョコレートを家でも仕事中でも食べているのを見たことがある。
それは風見からのかと考えれば納得はできたが、僕を差し置いて…と少し置いてけぼりに感じた。いや、正直に言えば嫉妬だ。


「風見さんもしかして、並んで買ってくれたのかな…申し訳ないことしたなー」


そんなことを言いながら名前は紙袋から箱を取り出し冷蔵庫に入れて、代わりに卵を2個取り出した。
慣れた手つきで卵をボールに割り入れ、素早く丁寧にかき混ぜて鍋に流し入れ数秒で火を止めた。



「お味噌汁とお清ましどっちがいい?」

「清まし、かな」


椅子に腰掛け、名前の料理する様を見る。普段、帰ったら出来上がっているか、僕が作るかが多いので料理している姿を見るのは新鮮だった。


「風見がいつもチョコレートをくれるって言ってたぞ。僕も今日もらったけど」

「だって風見さんいつも疲れた顔してるじゃない。手っ取り早い栄養補給にはいいでしょ」

「この間、食事をそれで済ませたとか言ってたぞ…」

「じゃあお説教?」

「そうだな。風見にも名前にもな」


くるりと鍋に背を向けて、こちらに振り向く名前。にやにやと笑っている。なんだその笑みは。



「よく考えたらバレンタインとかもらったことないし」

「だって零、甘いもの食べないって言ってたし、その分ご飯用意してたんだけど帰ってこなかったよね」


そういえばそんなこともあったなと思い出し言葉に詰まる。そんな僕をみてふふっと笑ってまた鍋に向かう名前。


「あとで風見さんがくれたチョコレート食べる?」

「ん」

「わ、突然背後に立つのやめてくれる?」


名前の後ろから鍋の中身を伺うとササガキゴボウ、大根、人参といった根菜類が入っている。具材の多い清まし汁のようだ。


「美味しそう」

「零のご飯には負けるけど」

「名前の作る味付けが好きだな」

「あら、嬉しい。味見お願い」


醤油を一回しして味見用の小皿に清まし汁を入れて僕に渡す。


「…さすが」


一口舐めてから啜れば、鰹だしが利いた風味だ。名前の作る関西の味付けはなかなか勉強になる。






ーーーー



食事も風呂も終え、お待ちかねと言うように口ずさみながら、冷蔵庫から取り出す。名前の横で僕もワクワクしながらその箱が開かれるのを待つ。


「見た目は普通だな」

「そう思うでしょ?」


円形型の見た目は普通のチョコレートとキューブ型のミントブルーとブラウンの二色が層になったチョコレートが5粒ずつ。名前は普通のチョコレートを1粒取って僕に向ける。


「はい、あーん」

「…いただきます」


ぱくりと一口。恐る恐る噛んでみるとむにゅっとミントの爽やかさが拡がった。


「中に入ってるミント味のジュレと合わさって美味しいんだって」


なるほど、と咀嚼しながら名前はもう一つのチョコレートを手に取る。


「これはナッツ入りなんだよ」


あーん、と声に出して名前もそれを口に放り込んだ。んー、と声を上げて頬が緩んでいた。



「甘いのにさっぱりしていいね。!チョコミントは正義」



威張った顔でふふんと鼻を鳴らす彼女のこんな姿を風見や他の同僚からは想像できないだろうな、そう思うと名前と甘いもの談義をしている風見になんとなく嫉妬していたのも薄れてきた。



「名前、俺もそれほしい」

「はい、どーぞ」

「そっちじゃなくて」



チョコレートをひと粒取る名前の手を遮り顔を近づけ、唇を奪った。甘いキスのはずなのにミントのおかげで清涼感のあるそれだった。



「ちょっと」

「うん、美味い」

「なにその満足気な顔…」



呆れる名前の口を塞ぐようにまたキスをした。






180604
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