風見さんからのヘルプコールで呼び出され、夜中にも関わらず急いで警察庁へ向かう。
警備企画課へと向かう途中で風見さんに出会し、すみませんと謝られる。
「むしろギスギスさせてごめんなさい」
しばらく人払いお願いしますと風見さんに声を掛けると足早に呼び出された原因の彼のもとへ向かった。
電気もつけず、かと言ってなにかをしているわけでもなく自席に座り腕組みをして、苛々した空気を纏っている上司。
私が来た気配には気付いているだろうけど、なんの反応も示してこない。
私は改めて周りに人がいないかを確認してから彼に近づいた。
『降谷さんがいつもより機嫌が悪くて……私用な案件で申し訳ないのですが、来て頂けませんか?』
機嫌が悪くても上手に付き合ってきた風見さんですら怯えるくらいなのだから、相当なものなのだろう。
だけど、私もここまで怒ってる彼に話し掛けるのは勇気がいるんだけどな……。
「零」
「……」
「れーい」
「……」
無視ですか。この鬼上司。
肩を竦めて、彼に近付いて抱きしめる。
胸元に彼の頭が収まりさらさらとした髪を撫でる。
「何怒ってるの。みんな怯えてるらしいじゃないの」
「……別に怒ってはいないさ」
「嘘つき。私にまで嘘をつくの?」
「……」
「"ゼロ"としてなにかあったんだと思うから、無理に理由なんて言わなくてもいいけど、嘘つくんだ、私に」
「悪い」
空気が変わる。彼が私の背中を抱きしめて、自ら胸元に頭を押し付けてきた。
「少し、胸糞な案件があっただけだ」
「珍しい。正義を貫くためならどんなことをしても涼しい顔をしている貴方が?」
「そうだな…らしくない」
彼の頭の上に自分の顎を乗せる。
「振り返ることも大事だと思うけど、それは私の前だけにしてね」
じゃなきゃみんなの仕事の効率が悪くなるから━━そう言えばははっと笑い声が飛んでくる。
「落ち着いた?」
「ああ、少しは。でもまだこのままがいい」
グッと引き寄せられてもこれ以上詰める距離なんてないのに彼は私に文字通り抱きつき、その顔を見せることはなかった。
彼の震える肩は見ないふりで、素知らぬ顔で彼の髪を撫で続けた。
降谷さんを宥める