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「おはよう」

「…おはようございます」



登庁のため、家を出ると玄関の前に立つ零。目があってすぐに挨拶をされたので戸惑いながら挨拶を返した。
今日もポアロへ出勤じゃなかったっけ、と頭に叩き込んである彼の予定表を思い返してもやっぱりポアロだ。
現に、彼はスーツじゃなくジャケットにロールアップデニムというラフな格好だ(そもそも零の私服だけど)


「ええと、入ります?」

「構わない。これを持ってきただけだ」


がさりと手に持っている紙袋を私の前に「ん」と渡されたので受け取り、施錠をして、彼と歩き出す。



「朝食を作りすぎたんだ。苗字の朝食と昼食の分。ギリギリまで寝てたろ」

「うっ…ばれてる。それにしては結構重たい」

「ああ、昼のは風見の分も入ってる」

「……寝てます?」


今日はまだ寝たほうだ、そう言いつつ頭をぽんぽんと叩かれる。エレベーターホールまでたどり着くとボタンを押してエレベーターが来るのを待ちながらちらりと紙袋の中を見る。
二つ分の包みの上に朝食らしきバゲットサンドが綺麗にラップされてあった。


早起きして朝食を作って私や風見さんの分のお弁当を詰めてきたとは、家に一人でいてもこの人はあまり寝ていないのかと頭を抱える。


「ちゃんと寝てくださいね」

「そうだな」

「……ところでいつから待ってたんですか?インターホンくらい鳴らしてください」

「そんなに待ってないよ。苗字が家を出る時間くらい把握してるし、驚いただろ?」

「そりゃまあ。…なにかありました?」

「なにも」



さらりと答えたその言葉に嘘つきと思った。それなら別に家の前までわざわざ来ない。せいぜいポアロまで取りに来いという人だ。



ーーーチン

エレベーターの扉が開いた。先に乗り込んだ彼が駅まで送っていくよ、と言っている。



「零」

「……ほら」



名前を呼ぶと仕方なさそうに笑った彼に腕を引かれ、バランスを崩した私を彼はきちんと受け止めてくれた。抱きとめられる形になってエレベーターのドアが閉まった。…1階へのボタンを押していないし、他のフロアも使用する気配もない。


顔を上げて彼の目の下の隈を撫でた。
仕事で徹夜してできるそれとは違う。
ただ、眠れなかったのか、ようやく寝付けても悪夢でも見て魘されたのかそのあたりだろう。

弱音は滅多に吐かない人。それは恋人である私にも、だ。それでもこの人は仕事以外のことは私に隠し事はできないから、わかってしまう。



「夜中でも気にしないから、私をちゃんと呼んでって言ってるじゃない」

「なんか悪いと思って」


零の腕から抜け出して、私はやっとエレベーターのボタンを押した。ブゥゥゥン、と鉄の箱が動く。

最近は帰っていない本来の家ならともかく、今拠点としてる"安室透"の家は組織の目も触れるかもしれないそう考えて呼び出したりしないのはわかっていた。
それでも、彼に一秒でも安心できる時間を与えてあげたい。それが出来るのは私だけだ。


「変なところに気を遣うのね。寂しいときは我慢しないでって言ってるのに」

「ほんっと敵わないよなぁ名前には」

「はぁ…怒られにきたわけ?」


エレベーターは1階へ続く扉が開いて、今度は私が零を置いていく。あ、と後ろで声がしてすぐに彼も付いてくる。


「お弁当ありがとう。風見さんにもちゃんと渡しておくね、あと送らなくていいから」

「怒るなよ」

「怒ってない」

「嘘」

「どっちが」



名前!とまた手を引かれ、歩みを止められる。そういうとこは強引なのに、この男。



「今夜はちゃんと帰るよ」



ご飯何食べたい?お母さんみたいなその質問に力が抜けた。



「ヘルシーなのにして。零のご飯美味しすぎて太っちゃうから」

「なんだそれは」

「ふふ」

「はは」



くすくすと笑い声がエントランスに響く。掴まれた手は離されて、指を絡めて繋がれた。



「今夜はちゃんと眠れそうだな」

「ならいいけど」

「頼むよ」

「はいはい」


笑う彼の目の下の隈が目立つけども、明日には無くなると信じたい。








****


「お味はどうですか?」

「いつも通り美味しいです。本当に降谷さんに欠点なんてないのでは」


警備企画課に書類を持ってきた風見さんを捕まえ、お昼を一緒にする。勿論、内容は彼に持たされたお弁当。


「ですよねえ……」


綺麗に巻かれただし巻き玉子の出汁加減もばっちりだし、焼き魚も冷えても美味しく出来ている。
栄養バランスが良すぎて、女子力を見せ付けられた気分になって午後からの仕事が捗らなくなったのは秘密だ。






180518
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