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「名前って、桜好きだよな」

「そう?」

「抱きしめたらこう、桜の香りに包まれるというか」



後ろにあるベッドに座りつつ、床に座っている私を足の間に挟み顎を頭に乗せながら零はあーいい匂いとまるでおっさんみたいなことを言っている。


「ほんっとすきだよな桜」

「日本人らしくていいでしょ」


ぽちぽちとスマホで通販サイトを見ながら答えると、うん、と返事。
新しいシャンプーを検索してスクロールしながら、相槌を打つ。



「あんなに綺麗に咲くのにすぐに散ってしまうのはほんと儚いものだよな」

「そこが日本人の心をくすぐるんでしょ。ま、花見よりも宴会のほうが楽しい人のが多いんでしょうけど」



よく使うシャンプーの限定の桜のシリーズが出ていたので、迷わず買い物かごに入れると画面を覗きこんでいた零があれ、と呟いた。


「まだあったんじゃないのか」

「季節限定だもん。ある程度買ってストックしておきたいなーって。というか匂い、苦手なら言ってね?」


桜の匂いのあるものを使いすぎて、もしかしたら他人には香害が起きてるのでは、と心配になる。仕事のときは香水もつけないし、シャンプーの匂いぐらいで抑えているけど、本当にそうなのか、自分じゃ鼻が慣れすぎてしまってわからない。



「いや?そんなことはない」

「そう?」

「桜の匂いと元々の名前の匂いとでいいバランスを保ってると思うよ」

「なにそれ。体臭の話はやめてよ恥ずかしい」

「つまり名前が好き」


スマホを床に落とす。突然の愛の言葉に驚いた。くすくすと笑い声が耳元で聞こえる。


「名前を抱きしめてると落ち着くし、安心する」


すぅ、と深呼吸の気配。ぞくりとするけど悪い気はしない。私の好きな匂いを好きな人が好きだと言ってくれて、さらに安心するなんて言われたら、嬉しくないわけがない。


「私も零の匂い好きよ」

「ほう?」

「できるなら零の匂いで包まれたいし、それに」

「それに?」

「……なんでもない!」


危うく言いそうになったけどよくよく考えれば変態的思考ではないのか。慌てて誤魔化したけど、誤魔化されてくれないのが彼で、結局言う羽目になると思うけど抵抗はしておきたい。



「なんでもないって?本当に?」

「もう、零、ぎゅーして!」

「はいはい」


零がベッドから滑るように降りて私と同じ床に座る。さっきよりも近い距離はすぐさま零の腕で縮められて、後ろから抱きしめられるのも悪くない。

ふわりと香る零の匂いと優しいぬくもりの今このときが永遠に続けばいいのにと思った。


「それで、なに?」

「……言わなきゃだめ?」

「そんな可愛いこと言ってもだーめ」



どっちが可愛いこと言ってるのよ!って突っ込みしたいけど、これ以上言わないで置くと後が怖いので抵抗はもう終わり。


「……家に泊まりに行くときも…まあ来るときもだけど朝方とかもう零はいないでしょ?」

「あー……すまない」

「あ、違うの、それを責めてるわけじゃなくて。起きて零が居なくなってるの寂しくてつい、零のクローゼットからジャケットとか取り出して抱きしめて二度寝…することが………」


だんだんと語尾が小さくなるけれど、言い終わったら、零が私を抱きしめる力が強くなる。


「そんなことしてたのか?」


うわ、もうドン引きじゃないこれ。恥ずかしい…。


「なんか気恥ずかしいな……悪くない」

「えっ…零のことだからにやにやして変態だなとか言いそうだったのに」

「まあ思わないことはないけど嬉しさのが増してる」

「だからね、匂いだけで安心する、気持ちは私もわかるよ…」


ぎゅっと零の腕に手を添えて、顔を無理矢理零に向ける。そこには顔の赤い零の顔。


「こら、見るな」


顔色を隠すように零は私にキスをして影を落とす。


「ん、」

「責任取ってもらおうか」

「喜んで」


貴重な零の顔を見られた対価は大きかったみたいだ。





180515
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