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『明日、久しぶりに友達と会うの』

そう言って夜のほうはなるべく控えめに、と恥ずかしそうに彼女は言った。

僕が彼女と居るようになってはじめて聞いた。仕事上、付き合いとは疎遠になっていくのも仕方のないことだった。

僕には友人と呼べる存在がみんな居なくなってしまったから、少し羨ましいと思ったのは秘密。





そんなやりとりから半日以上、ターミナル駅の付近の路肩に車を止めて、風見と連絡を取り合っていると、いつもよりメイクの濃い恋人がカフェに入っていくのを見つけた。



「ーーーー降谷さん?」

「…あ、悪い」



話半分に風見の報告を聞きながら、窓際に座る彼女を見ていると、スマートフォンを操作しだした。はじめは難しい顔をしていたが、柔らかい表情になって笑っていた。それは苗字名前の素の笑顔だ。



『高校時代の友達なの、大学卒業してからほとんど会ってないけど』

『へぇ、楽しんできなよ』



そんな会話を思い出す。と、同時に彼女の経歴を脳内で遡る。
高校も大学も共学で、彼女はえらくモテたらしい。そりゃそうだ、今も綺麗なのだ、昔も絶対に可愛かったに違いない。
誰かと付き合ったという話は全くなかったが、仮に他の男と付き合っていても一線は超えていない。
何故なら、僕が彼女のはじめてを奪ったからだ。

オフの彼女は愛情表現が下手なりにも僕を好きでいてくれる。けれど公私を上手に使い分けてくれる優秀な部下で恋人だ。

そんな素直じゃない彼女が今、見たことのない顔をしている。
友達は友達でも男友達だったか?さすがに男と会うなら一声掛けてくれるだろうし、誘いにすら乗らないのではないか。


スマートフォンを鞄に直してから、足下に置いた紙袋から雑誌らしきものをテーブルに広げた。いつの間にか注文したであろうティーカップも置かれていてきっとあの中身は彼女の好物のミルクティーなのだろうとあたりを付ける。



「!!」

「ふ、降谷さん?」


風見の戸惑う声に構わず、通話を切って車から出た。彼女が開いた本はブライダル関連のパンフレットだ。そんな話は聞いていない。



カフェに入って、彼女の背後に立つ。

ウェディングドレス姿で照れ笑いしている名前の写真が見えた。


「ーーーいい経験よねこれも」

「なにが?」


手を伸ばして写真を奪い、振り返る彼女ににっこりと笑えば、はははと笑って誤魔化そうとする。そんなことは無意味なのはわかりきっているだろう。


「どういうこと?」







ーーーー


『今、ここブライダルフェアでね、花嫁が友達を連れてきたらその子もドレスの試着、ヘアメイクを無料でしてくれるの』

『へ、へぇ?』


友人のその顔はいたずらっ子のよう。
後ずさった私はプランナーたちにしっかり確保され、ウェディングドレスを着る羽目になった。


『写真も無料で撮ってくれるらしいし、一緒に撮らない?好きな人がいてもね私たちは結婚適齢期なんだから、そろそろ婚活しないと』


"私はもう結婚するけど"と彼女の台詞で私も更衣室に納められることになった。



『綺麗な花嫁姿になりそうですね』

『そ、そうですか…?』

『ええ、腕が鳴ります』


初めて施されるプロのメイクの出来栄えはいつもより濃い。
けれど、ゴテゴテというわけでもなく、こんな顔も作れる自分に驚いた。
日頃の睡眠不足で出来た隈も綺麗に隠されている。


着せられたドレスはロングトレーンという裾がとても長く引きずるものだった。


『さっすが名前。よく似合ってるじゃない』


彼女は先程私が言ったプリンセスラインのウェディングドレスに着替えていた。


『ほら、笑って』

『こ、こう?』

『引きつってる!』

『すみません…』


そんな友人の指導の元、こうしてこの写真は出来上がったのだと、家に連れ帰られて怒る零に釈明した。
もちろん友人とのツーショット写真も添えて。

正座する私を見下ろす零の目が冷たすぎてびくびくする。全身に穴が開きそう。



「ほう?」

「予定はないって言ったんだけど強引にパンフレットとか持ち帰ることになってまあその…重たいし、一度休憩してから家に帰ろうと思って…」


どうしようかと頭の中をグルグルさせると、ため息が聞こえた。


「男と会ってるんじゃないかって心配したんだけど」

「ご、ごめん…。私も会ってから知って…その、まさか私まで着るとは思わなかったし」


しどろもどろな言い訳をしつつ、彼を見上げると、彼の視線は写真に移されていた。


「それと、"いい経験"っていうのは?」

「あー……ええと、ドレスを着る機会なんてないと思ってたから」


好きでこの仕事に就いたけれど、安定とは無縁の世界だ。自分の結婚というのにはいまいちピンと来ていない。
零は掌で顔を覆いまたため息を吐いた。


「名前は僕と結婚したくないと?」

「え、」


顔を真っ赤にして怒っているのか照れているのかわからない零。
頭の中で理解が追いついてしまった私も釣られて顔が熱くなる。


「あぁもう家じゃなく別のところでプロポーズしたかったのに」


零はそう言って腰を下ろす。私と同じ目線になって、じっと見つめてきた。


「……零の顔、赤い」

「名前も」


零の綺麗なブルーの瞳は私を射抜いて、逸らすことができない。近づいてくる顔に心臓の音が激しく鳴る。


「この写真、没収しとくから。ほんとに、名前は綺麗すぎるんだよ、ますます惚れそう」

「っ……」


こつんと額と額がぶつかり、零の吐息がかかる。唇が触れ合うまでもう少し。



、とスーツの胸ポケットから振動音。
ピコピコと着信のランプが光っている。



「…風見の電話切ったんだった」

「えっ、それは可哀想。出てあげてよ」

「へぇ。名前は僕をヒヤヒヤさせたことは可哀想に思わないんだ?」

「…仕事の電話はちゃんと出て」

「後で」



ちゅっ、と軽いリップ音を立ててキスをされたと思えばそのまま私は床に押し倒される。


「僕が名前にウェディングドレスを着せたかったのに先に着ちゃったお仕置きをしないとね」



そう言って私の上に乗った零はネクタイを緩めてにやりと笑ったのだった。






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