彼女はいつも電車通勤だった。
仕事以外で車を運転することも滅多に無い。深夜の呼び出しのときに乗ってくるくらいだった。
天気の悪い日や、帰れない日もあるから困るだろうといつだったか聞いてみると、慣れてますから、とすぐに返ってきた。その理由に、車通勤の僕には理解できなかった。
「降谷さん、お先に失礼します」
「ああ、お疲れ」
時計を見ると20時半。当たり前だが外は暗い。自分の業務も片付いたので彼女に問いかけた。
「送っていこう」
「いいんですか?」
「僕も丁度終わったところだ。PCを閉じるから少し待ってくれるか?」
はい、と何処となく嬉しそうな声で彼女は返事をする。どうして?と聞いたのは車に乗ってからだった。
「零と一緒に帰れるのが嬉しいからに決まってるでしょ?」
プライベートモードの声色と表情で彼女は言った。
「まさか、電車通勤の理由って」
「うん、時間が合えばこうして送ってくれるでしょ?でも私も車だったらこうはいかないじゃない」
はー…とハンドルに頭を乗せた。
まさかそんなくだらない理由とは思っていなかった。
「くだらないって思ったでしょ」
「全くだ」
零ならそう言うとおもったから隠してたのに、と不満そうな声が返ってくる。
「夜遅くなると危ないから、できれば車で通ってほしいんだけどな」
「遅くなるときは風見さんに送ってもらう日もある「なんだと?!」
たまにだよ、と彼女は言った。たまにでもなんでも他の男と二人きりというのはいかがなものだろうか。仕事中でもあるまいし。怪訝な顔した僕を彼女は笑った。
「零も風見さんも過保護ね」
一応警官なんだけど、と未だに笑う彼女に勘弁してくれと思った21時過ぎ。
降谷さんと帰る