私の非番の前日は彼と一緒に夜を過ごす日。そんな私達の暗黙の約束がある。
零はいつも私を激しく抱くので私はすぐに疲れて先に寝てしまうことが多い。その件については謝ったこともあるけど、逆にすまないと謝られたこともあるので、何も言わなくなった。
零と一緒に居られるのは嬉しいし、セックスだって気持ちいい。零は私の気持ちいいところを全て暴いていて、なんなら新たに発掘されてるような。
そんな熱くて冷めない夜を過ごしたあとの朝は寂しい。
彼には非番というものが存在していない。いや、あるにはあるけれど、本業の公安警察や、ポアロの店員、とある組織の潜入に忙しい。
勿論私もなかなか休みが取れないことも多いけど彼ほどではない、なので必然的に私の非番に彼は合わせてくれる。だからこそ、寂しい。
朝、目を覚ませばもう零は居なくて、くたくたに疲れきって寝ている私に服を着せてくれていたり、朝ご飯を用意していったりと気遣いまでしてもらい、本当にこの人はいつどこで休んでるのか不思議でならない。
「ん、」
頬を指先でなぞられる。ぴく、っと反応すれば指先は引っ込められた。
「零…?」
「起こしてしまったな…」
空は若干明るくて、彼の顔はぼんやりと見えるくらいだったけど、既に零はスーツに着替えて、ベッドに座って私を見つめていたのがわかった。
瞼が重くてなかなか目が開かないけど、眠りに落ちないよう必死で目を開ける。
まだ、寝ていていいよと優しい声が降ってきた。
零が行ってしまう。
「……行くの?」
「…うん」
彼は私が寝惚けていると思ったのか、いつになく落ち着いた甘い声。それがすごく眠気を誘う。
精一杯の力で彼の袖を掴んだ。
「名前」
今度は咎めるような、困ったようなそんな口調だった。寝惚けてると思われてるなら、言ってもいい?
「まだ、行かないで…?」
私の言葉はちゃんと聞こえただろうか、寝起き特有の低く掠れた声は届いたのだろうか。
「まだ、行かないよ」
復唱するように彼は答えた。それだけでも嬉しい。
私がもう一度眠りに落ちたらすぐに出ていくのはわかってる。彼はそういう人なのだから。そんな彼が好きなんだ。
もう瞼が開かなくなってしまった。
彼がこの部屋を出ていく前に、一言伝えられれば。
「ね、零」
「ん?」
「行ってらっしゃい」
「あぁ、行ってくるよ」
その当たり前のやり取りでようやく満足できた。ずっと言いたくて言えなかった言葉。ふっと身体が楽になって、袖を握り締めていた手が緩んでぽすんとベッドに落ちる。
私は再びおやすみの時間。
180429