すん、と桜のいい匂いがした。
最近買った期間限定のシャンプーの香りだ。
「あれ、零のシャンプー切れてた?」
お風呂上がりの零に問い掛ける。
「いや、気になって使ってみたんだけどね」
「ふぅん……?っていうか高いからあんまり使わないでよね!!」
「たかがシャンプーじゃないか」
「たかが、ね」
携帯で零が使ったシャンプーの商品ページを開いて零に見せる。
「……すまない。まさかこんなに高いとは」
「でも、いい匂いー。こんな匂いするんだね」
「君も使っているだろう?」
「自分でもわかるけど、他の人から香るとまた別物じゃない。もっとこっち来て?」そういうものなのか?と零は困惑しつつも、側に来てくれて、寄り添ってみる。
「うん、君も同じ匂いがする」
「えへへ。だいぶ香りは飛んでると思うけどなあ。あ、私もお風呂入ってこよ」
「いってらっしゃい」
着替えのセットを持って彼女は脱衣所に消えていった。
ここ数日でシャンプーの銘柄が変わったのは知っていた。不快にならない程度の香りがとても心地よく、いつもより手触りの良さそうな髪に見えた。
だからって彼女がずっと側にいてくれるような気になってついお高いシャンプーに手を出したなんて言えない。
開きっぱなしの携帯画面に表示されたままのシャンプーセットをちらりと見る。せめてものお詫びにいくつか購入しようかーーーそう思い立ち零は自分の携帯を開いた。
降谷さんのお風呂上がり