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日付も変わって警察庁警備企画課では私はまだ仕事に追われていた。普段の上司は潜入だの何だのと留守にするお蔭で大体の処理は私の仕事でもある。
終電はとっくに行ってしまったのもあり、今夜は帰れないのは確定。
しかし、警察庁にはシャワールームと仮眠室といった設備がフルに置かれている。
特に私は降谷さん専用に用意されたそれらを使ってもいいと本人からのお墨付きも頂いているため、泊まることに関しては特に困ることはない。


節電も兼ねて、暗い部屋でカタカタとキーボードを鳴らしていると、扉が開く。
私は驚くこともなく、お疲れ様ですと一言掛けた。
深夜の訪問者は降谷さん以外にいないからだ。


「いたのか」

「わかっておられたでしょうに」


やや、機嫌の悪そうな声色だった。雰囲気が公安警察の降谷零ではない。これが"バーボン"ーーという降谷零の顔の一つだ。
これ以上機嫌を損ねても嫌なのでそれだけ話すと口を閉ざした。
彼は自席に座り、溜め息を吐く。

彼とこういう空気になるのはさほど珍しくはない。だから慣れてるといえば慣れている。

私も彼に聞こえないよう溜め息を吐いてから席を立ち、壁際に設置されたウォーターサーバーで紙コップに二人分の水を汲む。一つ分は降谷さんの机に置いた。


「ありがとう」

「それ飲んで落ち着いたら帰宅してくださいね」


自分の分を飲み干し、ゴミ箱に捨てると、そそくさと席に戻る。
PCモニターには会議場の地図が照らし出されたままだった。

数週間後に行われる政府と海外から秘密裏に来る要人との会談。極秘とはいえ、どこから話が漏れるかわからない。当日の会議場に配置する人員を考えていたのだった。


「まだ帰らないのか?」


耳元で囁かれて肩が跳ねる。いつの間に背後にいたのか。


「降谷さんが留守の間の仕事ですからね、まだまだ終わりそうにないのはよくご存知かと」


嫌味を含んだ返しをすると、それもそうだなと彼は笑った。


「それに、終電は過ぎてますから。あとで仮眠室借りますね」


ふむ、とどこか納得したような声が降ってくる。


「僕も今から帰っても眠れそうにはないからな……一緒に寝るか」

「…はい?」







ーーーー







「ソファベッドに二人寝るのはいくらなんでも狭いのでは……」

「大丈夫だよ、苗字は細いから」

「細いとかそういうのは置いておいて、誰か来たらどうするんですか」

「何もなければ誰も来ないさ。来たとしても風見くらいだろう。それに、隈が酷いぞ」


彼専用の仮眠室とは言え、簡素なソファベッドと机に置かれた捜査資料が見える。
たまに彼が集中したいと言って、引きこもる時もあるそんな部屋。仮眠室というよりかは彼の仕事部屋と化している。

私は降谷さんに強制的に連れて行かれ、ソファベッドに座らせられる。
降谷さんに意義を唱えるとあっさりと返され、人差し指で目元をなぞられる。


「っ…くすぐったいんですけど」

「部下を労おうとしているのにひどい言い草だな」

「私は抱き枕じゃないんですが……」


ベストを脱いでそのあたりに投げた降谷さんは、いそいそと私を抱え薄い毛布に潜りこんだ。

ギシッと軋む音が響いて、静寂に包まれる。
横になったことと、ちょうどいい温もりに寝不足の私はすぐに睡魔に襲われる。

はっとする。ここまでさらっと降谷さんの行動に飲み込まれてしまった。
ぎゅうっと強く抱きしめられる。静寂だと思っていたけど、降谷さんの心臓の音が聞こえる。


「やっと、素直になったじゃないか」


おずおずと腕を彼の背中に回した。いま絶対にしたり顔で私を見ているに違いない。


「抵抗しても時間の無駄なので寝ます。……30分後に起こしてくださいね」

「はいはい」


僕は起きておかなければならないのか、と部下の言葉に苦笑いしたが、まあ確かに寝ないけども。

すぐに、夢の世界に旅立った名前を開放して、一人でゆっくり寝かせる。


小さく仮眠室の扉がノックされて、入れと言う。


「失礼しま………すみません、邪魔をしてしまいましたか」


風見が書類を持って現れる。風見の視線は眠りに就く苗字だ。構わない、と言って風見のもとに近付き上手く苗字を隠して書類を受けとった。


「ここ数日、苗字の帰りが遅いと報告があって助かったよ」

「お忙しいとはわかりつつも降谷さんにご連絡してしまいすみませんでした」


苗字があまり帰っていないとの報告を受けたのは今日だ。
始発から終電まで僕の仕事も片付けているので仕方ないが無理して倒れられても困るとの報告はその通りとしか言えなかった。
人には無茶をするな、なんて言うくせに彼女は無理をしすぎている。


「気にしなくていい。それよりこんな時間に呼びつけてすまなかったな」


風見とともに仮眠室を出る。夜が明けるまでは苗字を寝かせてあげよう。警備企画課に戻り、自分の席に戻る。元は僕の仕事だ。自分でカタをつけるさ。


「では。そういえば例の潜入は首尾よく進められているんですね」

「ああ、今のとこはな……」


潜入している組織の情報を風見に話しながら、夜は更けていった。
















ーーーー

「苗字、起きろ」

「ん、!」

「気持ちよさそうに寝てたな」

「今、何時ですか?!」

「もう朝、だな」

「ええええ!!」

「一旦帰るだろう、送っていこう」

「や、仕事がまだ…」

「あれなら、とっくに片付けた」

「さ、さすが……」









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