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「苗字さん、今日から復帰ですか」

「風見さん、ご迷惑をお掛けしました」


久しぶりの出勤だった。事故からのリハビリは思った以上にキツかったけれど、後遺症もなく、今まで通りの生活を送れることを零と喜んだものだ。
警備企画課に足を踏み入れれば、風見さんが居たので、挨拶を交わした。
忙しい零に代わって何度もお見舞いに来てくれたのだ。
零がそれを頼んだのだろうけど、風見さんも忙しいのに時間の合間を縫って来てくれたことに申し訳無さの気持ちが勝っていた。
もう一度ペコリと頭を下げる。


「いえ、大丈夫ですよ。これからもよろしくお願いします。"上"からの通達で今後、私と一緒に降谷さんのサポートに務められるとか」

「……ええ。じゃあ改めてよろしくお願いします、風見さん」

「これで私も安心できました」


眼鏡を押し上げて風見さんはそう言った。その意味が汲み取れなくて首を傾げる。


「降谷さんが、あのとき病院に駆け付けたのは本当に驚きました」


それは事故のときの話だ。彼は職務上、警察の裏で動く人物。その彼と同じ部署にいる私が運ばれたという病院に、……人目に触れるかもしれない場に零はそれを気にせず、こちらに来たという話を聞いた。
公私混同をきっちりと踏まえている彼らしくもないと私も思っていたが、風見さんも同意見のようだった。


「……その件についてもご心配お掛けしました」

「いえ、正直のところ安心しました。事故に遭われた苗字さんには申し訳ありませんが、あの時の降谷さんはとても人間らしく見えました」

「……それ降谷さんに言っちゃだめですよ?」


苦笑いで風見さんの胸を叩く。たしかにそうかもしれない、と納得する自分もいた。


私が目覚めたときのあの零の顔は二人きりのときの飄々とした顔でも、仕事上での澄ました顔でもなかった。


"降谷零"の素の表情だった。


泣きそうで泣かない表情で、壊れそうだった。そんな顔をさせたのは紛れもなく私だから、喜んでる場合じゃないのだけど、不覚にも嬉しくなった。あのときのことは忘れもしない瞬間になるだろう。



「で、今日は降谷さんは?」

「いつものように"バイト"のほうに」

「そうですか。じゃあこの溜まった書類たちを片付けますね。風見さんはもうお戻りに?」

「はい。降谷さん宛の書類を置きにと、苗字さんのご機嫌伺いのつもりでしたので」

「ほんとに風見さんにはどうお礼を尽くせばいいのか……」

「お蔭で良いものを見せてもらいましたよ。おっと、それでは」



時間を確認して、慌ただしく部屋を出ていった風見さんを見届けてから自分の席に座る。


「さてと、この仕事片付けちゃいますか」


膨大に溜まっている仕事にげんなりしつつも上司の机を見れば私以上に積まれている書類たち。自分の仕事はどうやら少ないほうのようだ。
そういえば、彼には私が休みの間の仕事も片付けて貰っていたんだった。

これは盛大に労わないと、それと私を傍に置いてくれてありがとうと感謝の言葉と共に今夜は零の好きなものをたくさん振る舞うことにしよう。

そうなると、やる気が入る。起動したPC画面に食い入るように仕事に没頭した。





180424

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