一人になるのは、怖い。できることならいつまででも誰かと繋がっていたくて。生きるのに必要な食事も睡眠もいらないから、ずっと愛欲に溺れていたい。 「もう帰るの?」 「おー、明日も仕事だし」 「泊まっていけばいいのに」 くしゃくしゃなベッドから起き上がって髪を掻き上げた。そろそろ鬱陶しいなあ、なんて思いながら間接照明のスイッチをオンにした。オレンジ色に灯された部屋。私の視線の向こうには男。その男はネクタイを締めてからベッドに腰を下ろして私の頭を撫でた。私は子どもじゃないってば。 「んな、物足りなさそうな顔すんの止めろよ、あ、まだ足りねーの?やらしいねぇ名前ちゃんは」 「うるさいなー、だって着替えあるんだから泊まればいいじゃんって話してんのに。銀時の意地悪」 「そんな可愛いおねだりは効かねぇぞ?明日の会議の資料まとめねぇと。これ以上はだめですぅ」 「いいもん、他の男呼ぶから」 「あ、地雷踏んじゃう?流石に怒るぞ?」 「そんな権限、銀時にありませーん」 「そうでしたー」 ぶぅ、と銀時は片手で私の両頬をつかんだ。痛くはないけど間抜けな顔を見せるのは恥ずかしくて手を振り払ってやった。 数秒目が合ったまま、お互いの顔を近付ける。 「名前ちゃん、」 「……ん」 「!お、ぃ……っ!」 目を閉じて触れるだけのキス。一瞬だけのキスじゃ足りなくて離れていく銀時のネクタイを思っきり引っ張って私から唇を奪う。呼吸なんてさせないというように逃げる彼の舌を追って絡める。 「……名前」 少し熱のこもった銀時の目になんだかにやけそうになりながらネクタイを手放した。 「……ばいばい。会議ってことは朝早いんでしょ?さっさと帰りなよ」 「つめてーの、あんなに熱いベロチューかましといて」 「……じゃあね」 ベッドに寝転んで毛布を被って背を向け丸くなった。ギシリとベッドのスプリングが鳴って、彼の気配が少し離れた。 「名前」 「なによ」 「ちゃんと服着ろよ?」 「はいはい」 そして彼はまた私の頭を撫でてから、部屋を後にした。アパートの廊下に響く靴音が遠くなって、やがて聞こえなくなったのを見計らうと枕の下に埋もれた携帯を取り出してすぐさま電話を掛けた。 「とっしーくーん。明日、仕事休みって言ってたよね?今から私の家で飲もうよ、うん、うんわかった、じゃあ近くのコンビニで待ってる。はーい」 電話を切って携帯を胸に抱いた。折角、セックスして気持ちよくなってそのまま寝れそうだったのにとんだ興醒めだ。会議ならさっさと家に帰ってろばーか。 ……後半だけ本人にメールを送り付けた。こんなことしても意味ないけど。夜の相手なら他にもいるわけだし。 『流石に怒るぞ?』 そう言った銀時の目は怒りを含んでいたようにも見えた。少しは嫉妬してくれればいいのになんて、“そんな権限”私にもない。 どろりとした感情が渦巻きつつもさっさと切り替えてシャワーを浴びる。銀時の匂いを早く流したかった。 「……寂しい」 どうして、寂しいんだろうなあ。 言葉にすることもなく、飲み込んだ。なんとなく身体が急激に重くなったような気がした。 140127 |