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「これから帰る」


そう、彼から連絡が来たもので、即座に夕食の準備に入った。とは言っても粗方、支度は終わっているので、あとは最後の調理に取り掛かるだけだ。

スープの入った鍋のコンロの火を点ける。冷蔵庫から卵とラップに巻かれた鶏肉、それからサラダボールを出して、卵を割る。
下味を付けて小麦粉まで付けておいた鶏むね肉に卵をくぐらせ、熱しておいたフライパンでじっくりと焼く。

フライパンに蓋をしてから、今度はトマトを洗って、予めレタスやキュウリ等を盛っていたボールに乗せて、クルトンをトッピング。

それをテーブルの上に移動させて、出来上がった他の料理たちも盛り付けて、漸く夕食は完成。


彼から来たメールはもう30分前くらい。丁度良い時間。



「グラス出しておこうかな」


明日は久しぶりの休みだから、お酒も飲むだろうか。確か、この間引越し祝いでローエンに貰ったお酒はまだ開けていなかったなと、思い出して、まだ物置に近いと言っても過言ではない部屋に向かう。ーーーと、突如、ガチャンと玄関から音がした。



「あ、アルヴィン、おかえり」
「ただいまなまえ。いい匂いすんな」


ネクタイを緩めながら鼻をすんすんと鳴らす彼が犬みたいで可愛い。晩飯なに?と聞かれたので、チキンピカタだよと、答えたら美味そうだと嬉しそうに笑った。




「頂きます」

「はいどうぞ」


ハ・ミル特産のパレンジのワイン。アルヴィンはドヴォールのブランデーが好きみたいだけど、今日はこれくらいの軽いもののほうが料理とも合うだろう。


美味しそうに食事を取るアルヴィンに私も手を合わせた。



「ごめんね、今日はちょっと品数少なかったね。帰ってくるの遅くなっちゃって」


バゲットに、サラダ、スープ、チキンピカタ。もう一品付ける時間は流石になかった。


「あー、いや、充分だよ。というかさ、家事やらせっぱなしで悪いな」

「それくらい平気だよ。アルヴィンのが忙しいんだし。今日は遅くなったけど、普段は早く帰らせてもらってるし!」

「それでも、最近は送り迎えもしてやれてねぇしな」

「あのね、アルヴィンはやることいっぱいあるんだから、そっちに専念しててほしいの。私もやっとやれること出来て楽しいから前みたいに寂しいとか……思わないことはないけど」


フォークを置いて、ワイングラスに口をつける。勢いで寂しいだのと口走ってしまったけど、この顔が赤いのは、ワインの所為。……なんだから。


「……けど、頑張ってるアルヴィン、かっこいいから……」

「!……なんか照れるわ」

「私のほうが照れてるってば。ほ、ほらっ、アルヴィンも飲みなよ!」


お酒を勧めれば、アルヴィンも慌ててグラスに手を伸ばす。赤い顔を隠すように。


今日の仕事の話や、ユルゲンスさんとの他愛もない会話の内容、バランさんに弄られたこと。毎日毎日話してるのに、飽きない。エレンピオスに来てよかった。







「あ、GHS充電しなきゃ」

「俺もだわ。貸して」

「うん、ありがとう」



食事も終わって、お風呂から上がると、GHSがピカピカと、赤く光っているのが目に入った。電池の残量が残り僅かなことを示している。小さく呟いたつもりがソファでテレビを見ていたアルヴィンに聞こえていたのか、手を差し出してきた。
GHSをその手に渡したら、充電器のコードと接続してくれた。



「別にいいのに」

「いやよくねーよ。全っ然使わねーんだもんなあ」


両腕を頭の後ろに置いて、ソファに背中を預けるアルヴィン。隣に座ってテレビのチャンネルを変える私。流石に面白そうなものはもうないかな。


「アルヴィンとしかほとんど連絡取らないしね、あんまり必要性は感じてないんだけど」

「まあそうだろうけど。エリーゼやレイアから連絡は来るだろ?」

「うん、でも二人とも忙しいし返信は遅いかな。私も忙しくなっちゃったしね」


ふうんと、聞いておいて興味がないような返事。気にせず、テレビの電源を切った。ただ、静かに時間が流れたのもほんの一瞬。


「なまえ?」

「眠たい……」


こてん、とアルヴィンの膝に横になった。なんとなく甘えたくなって、そう口にしてみたものの、本当に眠くなってきた。


「なんか久しぶりだね、こういうの」

「本当だな。……忙しいもんなぁ」

「でも充実してるよね。……ありがとう、エレンピオスに連れてきてくれて」

「……ああ」


横目でアルヴィンの顔を覗く。いつもは上げている前髪が降りていて、優しそうに笑ってる。

あ、目が合った。


彼の顔が近付いて、甘い時間のはじまり。






160705

アルヴィンの口調が行方不明。
どういうオチにしよう。












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