「ほう、驚いた。流石というべきか?」

「……700ヤード先まで平然と撃つ人に言われたくないです」





赤井さんと協力し、倉庫の中に銃弾を投げ込んだ。それは上手く作用したようで間一髪降谷さんを助けられた。


赤井さんより先にマスタングに乗り込み、身を潜める。降谷さんはまだ倉庫内から出てはいないだろうけど辛うじてのところを免れたのであとは自力でなんとかできると思う。……いや、するだろう。彼はそういう人だ。




『偽メールを送る?』

『ああ、ボウヤとあの博士に任せている。キュラソーが最後に送ったメールによればキールとバーボンがNOCだということを伝え損ねている。時間稼ぎにはなるだろうが、やるしかない』


ボウヤ…江戸川コナンという小学生は一体何者なのだろう。まさかFBIとそこまでの繋がりがあるとは思っていなかった。でも来葉峠での殺害偽装や、先日のことも全てはその少年が裏にいたということ。


……恐ろしい人間。私の中で降谷さんの次に恐ろしいかもしれない。赤井さんも、だけど。



『ならそのメールがラムに届くまでに私達はなんとしてでも助けないといけませんね。バーボンも、キールも』

『ああ、二人とも、な』



少し前の会話を思い出し、息を吐く。
携帯を開くとメールが一件。風見さんからだ。そのメールにはキュラソーを公安の保護下に移したとの報告。
降谷さんの指示で東都水族館に向かうとのこと。
そういえば、と思ってフロントガラスの向こうを見ると観覧車が見えて、私はやっとハッとした。

テレビの宣伝で流れていた観覧車の前に設置されている噴水と5色のスポットライトの存在を。



「……あの5色は…」



バタン、と赤井さんが運転席の扉を開いた。観覧車に目が行っていたので気配を察知するのに遅れてしまった。びくり、と肩が強張ったが、赤井さんの姿ですぐに力を抜いた。



「彼は、無事だ」

「……キール……いえ、CIAの人の怪我が心配ですが」

「こちらで彼女を回収するように伝えよう。それより、これからだが」

「……東都水族館、ですよね?」


 
赤井さんの瞳をじっと見て次の行き先を告げるとホォー、と行って目を細めた。


キュラソーの記憶を揺さぶったのはあれだ。あの5色のスポットライトはキュラソーが持っていたのと札と同じ色数。
しかもそれらは光と水のショーと銘打ったものだ。噴水と共に照らされているあれは昼間と違って透明度も高い。昨日は昼間ということもあり、発作だけで済んだようだけど、今回は記憶が蘇るかもしれない。



「……組織も東都水族館に?」

「ああ、何やらでかい仕掛けがあるようだな」

「組織がキュラソーの奪還をあの場所でするんですね。なら、私達の向かう先は…同じ」



シートに座り直し、シートベルトを手にかけた。赤井さんと目を合わせ、お互いに頷いた。



















ーーーー


銃弾が2発。それでなんとか僕とキールは万が一を逃れた。誰が助けたかはわからない……いや、十中八九あの男だとは思う。でなければそう簡単に銃弾が放たれるわけがない。
物陰から組織の目論見を聞きながら、風見への連絡のために倉庫から抜け出した。






「みょうじが消えた?」

「降谷さんを助けてくると言って、出ていったのですがお会いになっていないのですか?」




風見からの報告には僕も驚いた。彼女が僕を助けると言っただと?
まさか、あの銃弾の一つは彼女の引鉄からのもの、とか?いやそんなことよりも、彼女は赤井と行動しているかもしれない。そのことに胃が締め付けられる。




「あ、」

「どうした風見」

「みょうじさんからメールです。彼女も東都水族館に向かうようです」

「……そうか。なら、風見、君はキュラソーとともにーーー」




今は、この方法にかけるしかない、そう風見に言った。埠頭にある公衆電話の受話器を置いて、対岸にある東都水族館の観覧車を見上げた。5色のスポットライトが噴水に照らされ、きらきらと光っている。



「流石、僕の部下だな」



たぶん彼女も気付いただろう。あの観覧車とキュラソーを結びつけるものを。
赤井と行動しているのは気には食わないが、説教は後にしよう。ぐっと拳を握り込んで、僕は走り出した。













赤井さんと別れてから観覧車の受付に向かった。あの場にはキュラソーや風見さんが今居ると連絡をもらっている。

キュラソーと共に観覧車に乗るつもりだ。そして記憶を取り戻すであろうキュラソーの確保、その彼女を奪還しようとしている組織の人間たちと対峙になる。
私もその観覧車に同乗するつもりだったけど、一足遅かった。



「風見さんは、!!」

「みょうじさん!先程、乗ったばかりです」

「間にあわなかった……」


部下の今までどこに…という言葉に返す前に、目の端で小さな探偵さんの姿を捉えた。



「!な、んであの子がここに、?」






『乗っちゃ駄目だ!』





私が観覧車の乗り口にたどり着く前に聞こえた言葉。まさかあの少年が風見さんに向けて言った?いや、あり得る。
だってあの子はただの小学生じゃないし、公安のエースでもある降谷さんやFBIに属する赤井さんですら注目しているのだ。


再び人の波の列に戻っていく少年をふらふらと私も追い掛けた。赤井さんは観覧車の内部に居ると言うし、降谷さんも向かっているだろう。勘のいい人だ。降谷さんも自分を助けたのは誰かっていうのは薄々わかっているだろう。




「……ああ、喧嘩するかも」



ポツリと呟いた言葉は喧騒に掻き消された。







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