各国の諜報員が暗殺されたとの情報が入ったのはお昼を過ぎてからだった。



スタウト、アクアビット、リースリング。どれも酒の名前から取られたものであり、黒の組織に潜入しているNOCだ。その一報を聞いたとき、ここが職場でなければ私の心は折れていたかもしれない。

思わず彼の名前を呟きそうになったのを首を横に勢い良く振って耐える。今は弱音を吐いている場合じゃない。他に流出したNOC……彼の身を案じた。




「みょうじさん。キュラソーの見た目と一致した人間が東都警察病院にてうちの捜査一課の保護下との情報が」

「!…思ったより早かったですね。大至急、こっちに身柄引き渡し請求お願いします」

「はい、手配は回しています。それと……降谷さんから、伝言です。もしもの時は頼むと、みょうじさんに」

「……!」


彼が上司じゃなければこの馬鹿!と罵っていたかもしれない。落ち着いて深呼吸する。




「もしもなんて、絶対認めない」





風見さんに警察病院へ引き渡しに向かってもらい、私は降谷さんの次の手を考えていた。



キュラソーと思しき人物はリニューアルオープンされた東都水族館の施設内にある観覧車で異変をきたし、ということだ。



何故、観覧車に乗っているのだろう、と思ったが、私の推測通り記憶喪失になっているのだろう。そこで発作が起こり、というなら記憶障害を揺るがすなにかが起きたということ。


「……」


テレビで東都水族館の施設紹介をしていたのを思い出す。あの観覧車にはなにがある?…思い出して、私。じくりと首が痛む。ああ、降谷さんに噛まれたとこだ。

……集中できない。



時間にしては10分だか20分だか考えていたのだろうか。首を抑え、溜め息を吐くと、胸ポケットに入れている携帯が震える。画面を見ると知らない番号からの電話。そういえば、と先日の一件を思い出し、着信を取った。






「ーーーもしもし。赤井、さん?」














ーーーーー






赤井秀一と連絡先を教えあった、なんて上司にバレたら携帯をその怪力で壊してしまうのかな。


ましてや、先日は雨の中に家に連れて行かれたとか、今はマスタングの助手席に座っているなんてバレた日には私の命があるのか。ふざけたことを考えた。




「降谷さん……」

「大丈夫だ、俺もお嬢さんもいるからな」



港の倉庫街に降谷さんはベルモットという組織の人間に連れられたということを聞いた私はすぐさま赤井さんと合流した。

遠くにそびえる観覧車は世界初の言葉は伊達じゃないな、と思えるくらい存在感があった。



「……あ、車」



見覚えのある白のRX-7は紛う事なく彼のものだ。赤井さんの車から降りて、辺りの気配を確認する。


「あの倉庫から微かに声が聞こえる」

「よし、行くぞ」

「ちょっ…何をするんですか」

「お嬢さんの射撃の腕、見せてもらおうか」


ニヤリと笑う赤井さんの顔に懐に入れた銃にジャケット越しに触れる。発砲許可なんてもらってないし、いくらこの組織にとはいえ、無闇矢鱈と発砲はしたくない。しかし、仕方ない。緊急事態だ。
もしものときは、なんて私は許さない。







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