「あの女性はマークUに乗って首都高方面に走ってます」

「了解」



風見さんから送られてきたデータを見て、降谷さんに指示を飛ばしながら逃げた女性を追う。情報によると猛スピードで駆け抜けていくマークUの後ろに赤いマスタングも同様に追っているという。


「……まさか」

小声でそう言うも運転に夢中な降谷さんの耳には聞こえていないようだった。

負けず劣らずRX-7もエンジン音が喧しくなり、ぐんぐんと先行車を追い抜き、目当ての車を発見した。



「あれだな。突っ込むぞ!」

「!?」



ぐっと肩を引き寄せられ、降谷さんはアクセルを踏み続ける。目の前に迫るマークUにぶつかる気だと理解した私はぎゅっと目を瞑って降谷さんにしがみつく。
ーーガンッと強い衝撃を受けたけど私は降谷さんのお陰で前にのめり込まずに済んだ。

体勢を立て直し、降谷さんはまだ加速を続ける。逃がすかーーそのギリッと歯軋りが僅かに聞こえて私はサイドミラーを見やると、赤のマスタングが私達の後ろに居た。

目を凝らしてみれば、黒のニット帽が見える。……赤井秀一だ。やはりあれは彼だったのか、と納得した。
幸いなことにまだ降谷さんは気付いていない。でも時間の問題だ。
私たち公安が追うということは、彼らFBIも追っているということだ。
だけど彼女をみすみすとFBIに取られるわけにもいかない。


運転は任せて、私は風見さんからのデータを見よう。サーバールームの監視カメラもきちんと仕事をしてくれていたようだ。


カーブに差し掛かったあたりで、後ろのマスタングがぴったりと私達についてくるのを見て降谷さんは、ようやく気づいた。


「赤井!!」


マスタングがマークUとRX-7の間に割り込むと、降谷さんは舌打ちをして車体をマスタングのほうに寄せる、またぶつけるつもりなの?
ぱっと視点を前に移すと彼女の運転する車は路肩を走り、並走するトラックや他の車にぶつけ出す。


「下がれ赤井!!奴は公安のモノだ!!」

「降谷さん前!!」

「なっ…」


クラクションの音がけたたましく響く、あっと思ったときにはトラックと彼女の車の間に走っていた車が上から私たちに向かってくる。


それも間一髪避けると、車を挟んで走っていたマスタングが後方で止まった。



「……えっ」

「ふん、諦めたか」


バックミラーで降谷さんもそれを確認すると吐き捨てるように言った。……諦めた、というよりはなにか思惑があるんだと思うけど、火に油を注ぐのは目に見えてわかっていたのでそれ以上は口を閉ざす。



私達の進む方向で渋滞が起こっていることを知ったのはすぐだ。
ループ状の道路で彼女はトラックを踏み台にして下の道路に落ちていった。それを追うけども、そこで道路状況に気付いた。この先にある橋の手前で渋滞が起きている。



「それでも追うぞ…もし逃げられでもしたら世界中がパニックになる」

「勿論です。でも赤井秀一があの場で止まったということは、彼女はまたこっちに戻って……」



言い終わる前に、ぎゅんっーーーと車が私達の進行方向とは逆に走っていった。



「……まさか逆走!?」










ーーーー


私達が追いついたときには彼女の乗っていたマークUは姿を消していた。降谷さんと車から降りて、道路の外を見る。車が倉庫の上に落ちて、爆発している。
くっ、と眉を顰める。
黒煙が立ち上るなか、降谷さんと、ライフルを持つ赤井秀一を見る。



「赤井……貴様…っ」


「降谷さんーー!!」


今にも殴りかかりそうな降谷さんの名前を呼ぶと、サイレンと赤いパトランプが近付いてくるのに気付いた。
この場は退かなければ。
降谷さんもそう思ったのか、車に戻る。
私はというとタブレットPCを抱えながら、赤井秀一を見る。くす、とこの状況で笑みを浮かべたのが見えて若干腹が立って何か一言言ってやろうかと思ったけど、降谷さんの「みょうじ!」と私の名前を叫ぶので諦めて車に乗った。





警察庁へと戻る車の中は静まり返っていた。さっきまで響いていたエンジン音すら静か。
NOCリストが奪われてしまった。早急に彼女を見つけ、捕えなければ。
降谷さんだけでなく各国の諜報員の命も危うい。タブレットPCの画面に齧りつくように見ると降谷さんがぽつりと話した。




「最初はラムだと思ったが、違うな。あれはラムの腹心、キュラソーだ」

「…キュラソー。無色の酒ですね。着色次第でどんな色にも」

「…無色、か」

「監視カメラをさっき見ていたんですが、気になることがあったので後で見てもらっていいですか?」

「その前に、上からのお説教だな」


ふっ、と声が聞こえてきた。先日の来葉峠の一件からまだそんなに時間が空いていないのに二度の失態だ。降谷さんに何らかの処分が下るのでは。ちらりと降谷さんの横顔を見る。



「大丈夫だ。あの高さから落ちたんだ。死んではいないだろうが、まだ時間はある」



安心させるように私の頭を撫でてくる降谷さん。一番気が気でないのは彼だろうに。



「絶対……絶対捕まえますからね」

「頼りにしてるよ、相棒」








×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -