これを、と沖矢さんは着ていたジャケットを私に被せた。
甘ったるい煙草の残り香が鼻につく。車は動いてしまったので諦めてシートベルトを締めて沖矢さんを見ないようにする。ずぶ濡れの状態で座ってしまったのでシートが濡れてしまった。
そんな私を察したのか沖矢さんは気にしなくていいと言った。


「さて、お嬢さんをお送りしたいところだが、どうも家を知られたくないようだ」

「……」

「しかし、お嬢さんは随分雨に打たれたから、一刻も早くシャワーにでも浴びてもらいたい」


失礼、と一言添えて、懐から煙草を取り出して火をつけた。声は赤井秀一なのに姿は沖矢昴。FBIの変装技術は高いな…。
そういえば、降谷さんも何度か変装をしているけれどそれは同じ組織のメンバーの手によって、ということを聞いた。



「その辺りで降ろしてもらえれば…」

「また降ろしたらお嬢さんは泣いてしまうだろう」



信号が、赤。煙草の煙を吐いて私の方を向く気配。



「……私には隠そうとしないんですね?私からの情報はあの人に筒抜け、のようなものなんですよ」

「お嬢さんは爪が長いんだな。それに射撃も得意とか」

「は?」



私の疑問をスルーして左手を取る。広げられた手の平の傷をまじまじと見られた。それは先日の来葉峠で強く手を握りしめた時に爪が食い込んだ傷。
沖矢さんは指で傷を撫でると掌にキスを落とした。


「!!なっ、」


「痛々しそうに見えたが、治っているようでよかった」


勢い良く手を振り払う。爪先が彼の頬を掠めた。
この傷は1度目は彼が降谷さんと電話しているとき、2度目は車の中で。……見られていたというのか。




「昨日は確認しそこねたのでね」


沖矢さんはそう言うと顔を正面に向けた。青信号になり、再度車は発進する。


『泣いてしまうだろう』

『痛々しそうに見えたが』



この人は何処までわかってたんだろうか。あのとき車を降りたあとの私の様子までも把握していたのだから、相当な人間だ。



「って、降ります!」

「もう着いたよ」



そんな雑談をしている場合じゃない、と気が付いたら車は工藤邸に入ってしまった。ああ…流されてしまった…。

沖矢さんは車を止めるとすぐに傘を持ち外に出て、助手席側のドアを開けて傘を差してくれた。



「別にとって食いやしない。そんなことをすれば、降谷くんに殺されるからね」

「既に殺されてもおかしくないことを貴方はしたでしょうに」


ジト目で彼を見ると、そうだったなと痛々しそうな顔をして、心がちくりとした。そうじゃない、そうじゃない。
この人は降谷さんを守ってくれたんだ。あの人が守った情報と自分が恨まれ役を買って出たことがその証だ。




「…そこから動かないなら無理矢理にでも抱き上げるが、自分で動くのとどちらがいいかな?」

「う、動きます…」

「いい子だ」



本当にやりかねない。車から降りると手に持っていた財布と鍵と携帯しか入ってない小さなカバンを持ってくれた。腰に手を当てられたのは故意に、というかアメリカ式なのだと思う。



ああ、面倒なことになってしまった。






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