眠りに就いた筈だった。気遣うような小さな小さな気配にふと目を薄く開けば音素灯に照らされたジェイドが見えた。 上半身を起こして、分厚い本を読んでいる。 ……確かに一緒に寝たはずなのに。先に眠りに落ちるのは私だけど。 「…ジェ、イド…?」 寝起きの掠れ声で上手く音にならなかったけど、ジェイドの紅い目が眼鏡越しじゃなく、私を刺すように見据えられてびくりとした。 失礼、と言って譜業である眼鏡を掛けてジェイドはふっ、と笑う。 「起こしましたか?」 嫌味やからかいなんて含んでない優しい声に再び眠りに誘われそうになったけど、なんとか耐えて私も上半身を起こす。 「……寝ないの?」 「…目が冴えてしまって」 本を閉じたジェイドはサイドテーブルに置かれたスタンド式の音素灯の灯りを少し落とす。 「……うん」 「……珍しく昔の夢を見ました」 「……うん」 「眠れそうにないですね、今夜は。……らしくありませんね」 「………うん」 もういいよ、と私はジェイドを抱き締めた。 「私じゃやっぱり貴方の力になれない?」 貴方は私や誰かに相談なんてしないから抱え込む。 抱え込んで、苦しんで独りで夜を過ごすなんて長くて辛いでしょ? 「#name名前#。貴女は……とても大切な人です」 だから、心配掛けたくない。 震えた声でそう言った。らしくない。そうかもしれない。それでもジェイドの弱いところを見られただけでも、私は彼に心から信用してもらってるのかもしれない。 ……だけどね、ジェイドが独りなのは嫌。ジェイドが辛いなら私もその辛さを背負いたい。 独りで何もかも被らないで。 そのために私は此処に居るよ。 ねぇ、ジェイド。 「相談して、なんて言わない。ジェイドが言いたいときに言えばいいし、私だってそうだし」 ぎゅっ、とジェイドが私に力をこめた。 「私が居ることを忘れないでほしいな」 独りの夜は貴方の傍に寄り添うよ。 貴方が安心した眠りに就くまで。 だから大丈夫───。 そう言えばジェイドはありがとう、と呟いた。 「ですが、貴女のほうが先に眠るでしょうね」 「えっと……今夜くらいは頑張ってみる」 「まあ、構いませんが。では、ずっと抱きしめさせてください」 さらりと吐いた言葉に脳が理解してきた頃に、部屋の灯りは消されて真っ暗。カチャリと眼鏡を置いたような音。 と思ったら更に力強く抱きしめられ、上半身が倒れる。 「ちょっ、苦し……!」 「これはいい感じですね。眠れる気がしてきました」 ……まあ、いいか。言った手前、撤回できないし、する気もないし。 今はこの甘えてくる30代軍人さんが可愛いし。 161015 |