※群青の空、瞬く時の続き 報われません。
パキッと何かを踏んで暗い部屋に入る。部屋の中心で蹲る人間を見て、あーあ、というように両手をあげた。
「おたく……生きてる?」
ぴくりと動いた身体に俺はコートを脱いで、その人間に近付いた。
「久しぶりだな……名前。……いや、裏切り者」
「アル……ヴィン……!」
暗さに慣れてきた俺の目に映ったのはかつての恋人の睨んだ顔。溜め息すら出なくて、コートを掛けてやる。
「またひでェ拷問されたこと」
辺りを見渡せば数々の拷問器具が落ちていて、彼女の服はボロボロだった。抱きしめてやりたい気持ちを堪え、手のひらに握ったままのものを差し出す。
「―――戻ってこないか?」
「もう、嫌なの。アル……もう、やめよ?こんな組織、居続けたって帰れないのよ」
差し出されたオレンジ色のスカーフを払い、名前は目を伏せた。
「もうすぐ……もうすぐなんだ」
「アル……私は受け入れるわ、この世界を。この世界で一緒にっ!」
――――ガンッッッッッ!
銃声がコンクリート固めの部屋に轟く。名前の頬を掠め、血が流れる。
「どうしろって言うんだよ……俺は……!この世界じゃなく向こうの世界でお前と」
「アル。私を殺してよ。ううん、殺しに来たんでしょう?裏切り者は組織にも戻れない、普通に生きることすら許されない。……私たちが見てきたじゃない」
アルクノアで生きる。どんな汚れ仕事でも俺は受けて、母さんを、名前を護っていきたかった。だけど名前は拒んだ。俺だけに背負わせないと。
「だけど、お前は……アルクノアだけじゃない、俺すらも裏切った……」
「アル……変わったね。マクスウェルと行動してからかな?以前の貴方なら此処に戻らないか、なんて聞かずに殺していたのに」
痛々しい傷をそのままに名前はコートを脱ぐ。これ以上汚しちゃいけないからと小さく呟いて、震える俺の手を銃ごと掴んだ。
「アル……ごめんね」
「な……にを……」
不思議なことに動かない俺の手。温もりが刺さるように痛い。やめろ、やめてくれ。動けよ、なあ。
「もう、知らないフリ、しなくていいよ。私は此処で、生きて死ぬって決めたの。でもどんな世界に居ても――」
名前の指が引金に掛けられる。ハッとしたときにはニ度目の銃声が鳴る。
「――アルに抱きしめられて最期を迎えたい」
そう理解し、聞こえたところで彼女は息絶えた。胸の真ん中がじわじわと赤く染まる。やっと動いた俺の身体はぎゅっと彼女を抱きしめる。まだ、暖かいんだよ、死んじゃいねェんだよ。
「ふ……ざけんなよ、おい」
どいつもこいつも、自分勝手で勝手に成長していきやがるわ、俺が必死に護ってきたもんは簡単に死ぬわ……どういうことだよ。
「お前が居たから、お前が居なきゃ、」
俺は今まで何のために頑張ったんだと思ってんだ。
ロストブルーの瞼に星屑
title/√Aさま
111020
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