tox | ナノ



「名前っ!」


勢いよく開けた扉の先には一瞬、ぽかんとしたが、すぐにケロッとした
表情で手を振る恋人の姿。
その手には痛々しく包帯が巻かれていた。



「はー……元気そうだな」

「ぴんぴんしてるよ」

「いや、前言撤回、顔も怪我してんじゃねーか」

「あー……」


ベッドに座る名前に近付き手をとった。うっすらと包帯には血が滲んでいる。



「バランさんが連絡したみたいだね、その様子じゃ」

「あー。まぁな。つかあいつがそもそもお前に依頼した仕事だろーが」

「そうでした」



名前がこんな状態なのはつい数時間前だった。リーゼ・マクシアでの商談も終え、マクスバード港で一息ついたらバランからの電話だ。



『は……?怪我?』

『結構派手にやられたみたいでね、ジュードがいないから簡単に治らなくて。仕事頼んだ僕が悪いんだけどさ、まあ、名前ちゃんこっちにいるから、時間があったら迎えにきてやってよ』

『わかった。今からいくよ』



とまあ、こんな会話があり、すぐにヘリオボーグの医務室へと駆け込んだわけだ。
バランの言う通り元気そうだがあちこちに包帯が巻かれ、確かに「派手」に怪我をしたようだった。


「ほんとヘマしただけなの。ジュードがいればパッと治るんだけどな。私も真面目に精霊術勉強しよっかなー……ってアル?」

「バランの依頼なんて受けるなよ……」

「だって実験に必要で、ジュードもいないときなら、私がいけばいいやと思って。……えと、心配させてごめんね?」


腰をおろし、名前と目線を合わせる。


「っとに心配したっつの……。これから、なんか依頼されたやつは絶対俺に連絡すること」

「ええええ、大丈夫だよ!過保護だ!」

「現に魔物にやられてんじゃねーか」

「だから、あれはヘマっ……!で、ですね」



消毒液の匂いが鼻腔をくすぐり、俺はそのまま名前の肩に顔を埋めた。



「……ごめんね」

「そう簡単に俺様許さねーから覚悟しとけよ」




いつも飄々と戦い、負け知らずの名前がやられるとは思わなくて。
無事でよかった。


そんな気持ちが伝わったのかぽんぽんと、頭を撫でる名前。


「元気だよ、私」

「……みたいだな」

「ね、お腹すいちゃった」

「しゃーねーな、食いにいくか」



気持ちを切り替え、顔をあげた。



「歩けるか?」

「へーきへーき。ほら!」




足をぶらぶらさせて笑う。あっ、という声をあげて、ちょいちょいと人差し指で近付いてこいと合図した。




「なん……っ!」



すべての言葉をしゃべる前に俺の口は塞がれて、すぐに離れた。至近距離に名前の顔。



「ほんとに、ごめんね、次からはちゃんと連絡するから」



一瞬だけ切なく笑うと、すぐにいつもの笑顔に戻り、ぴょんとベッドから降りた。



「早くいこうよ、お腹ペコペコ!」





「……くっそ、ずるいんだよ」

「なにかいった?」

「なんにもねえっての」





(きみがあんまりかわいいから)





title:家出さま




130516

アルヴィンから坂田銀時になってる気がする……








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