待ち続ける恋が嫌だった。待つのが辛い。だけど彼は会いたいと言えばすぐに来てくれる人ではないし、素性も詳しく知らない。それでも好きだから、そんなこと気にしない、と言ったのはあたし。それは今も気にしていない。ただあたしは会いたいだけ。寂しくて、寂しくて仕方ないの。 ――――ドンドンッ! 深い眠りに就いていたあたしを瞬時に現実世界へ戻したのは、真夜中の訪問者。壊れるんじゃないかと思うくらいに叩かれる扉。普通なら不審者だと怯えるかもしれない。それでもあたしはその訪問者がなんとなくわかった。 裸足のまま、玄関に近付いて鍵を開けた。その音に気付いたのか扉が静かになった。 「……アル」 「よっ、」 開かれた扉の隙間から、アルヴィンは現れた。あたしを見つめる垂れた瞳は睨んでいるようにも見えた。全開になった扉が一瞬で閉まる。目の前は真っ暗で、香水が鼻腔を掠める。そっと彼の背に手を回すと、力強く服を握り締めた。 「らしくないよ」 「おたくが手紙を受け取らねぇのが悪いだろ」 「それは……」 何も言えなかった。音信を途絶えさせたのは間違いなく故意。ふらりと現れ、交わるだけの生活に嫌気が差した。その分彼に依存してしまい、彼からの連絡を待つのが心苦しい。この気持ちから逃げたかった。 「……嫌いよ、あなたなんて」 「名前……?」 それでも寂しかった。自分から連絡を断ったのにも関わらず。否、それほどまでに気まぐれなこの男に依存している自分を認めたくなかったのかもしれない。 ああ、なんて簡単なことなんだろうと思って小さく笑ってしまった。そして溜め息をついて、頭をそっと彼の胸に預けた。 「離れられないのよね。……心も身体も」 「そりゃーまあ、俺が名前ちゃんの身体開発しちゃったげふっ!」 「うるさい」 鳩尾に一発拳を入れて、顔を上げた。 「……おかえり」 あたしたちには約束なんて存在してない。ほぼ、彼の都合で振り回され、抱かれ、過ごしてきた。それはこれからも続くんだろう。 「ほんというと、おたくと連絡取れなくて焦ったわ。俺も、ヤキが回ったか」 「どうして?」 「あんたが大事な存在になってるって気付いたってわけ」 「……本当?」 「本当。なんなら今から証明してやるよ」 そう言うなり、部屋に侵入してきた彼に寝室まで腕を引かれながら、もう一度笑った。 もっと素直に行動してみようと、思った。 「……やっぱ好きだよ」 掻き消えぬエトワス title/夜空にまたがるニルバーナ様 130512 1年以上更新してないとやっぱりわけのわからない似非アルヴィン…… |