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全件表示 ◇◆ 2022/03/15 18:22

仕事上、恋人は作らないと決めていた。命を賭しても守りたいこの国が己の恋人だと言い聞かせて。全くの経験がないというわけではない。子どもの頃の淡い初恋、学生時代の可愛い恋愛、そして捜査のためならばと女性の扱いもいつの間にか上手くなってしまった。
そんな自分が誰かを好きになってこの手に捕らえたいと思ってしまったのは恐らく初めてだった。

仮にも上司である自分に真っ向から意見をぶつけてきた部下である彼女の瞳に惚れたのは自分が先だった。初めは面白い経歴だなと思っていた彼女をかつての仲間が可愛がっていたと知り、興味本位はあった。無意識に抑え付けていたソレはいつのまにか抑えられなくなり、彼女に想いを伝えてしまったのは流石に公安失格だったが、後悔はしていない。



「、ふ、るやさ…」


初めてのデートに緊張した僕は彼女と一緒にバーに入り、少し飲んだ。普段酒は飲まないし、いつ招集が掛かるかもわからないので控えてはいたが、今晩くらいはいいだろう。風見には悪いが今日はよっぽどなことがない限り連絡はするなと伝えている。
……僕は今晩、彼女を帰すつもりはないのだ。





『恋はしたことあります………でも勉強とかバイトばっかりでそんな暇はなかったんですよね』



カラン、とグラスの氷が揺れる。高校生じゃあるまいしなにを緊張しているんだ僕は。
彼女が誰とも恋愛関係になっていないということを聞いたのは付き合う前だったか。
僕が彼女の初めてを貰えるとわかってどれだけ嬉しかったか、彼女はそれすらも理解していないのだろう。



……邂逅はここまでだ。舌っ足らずで僕の名を呼んだほろ酔い状態の彼女は今、ホテルのベッドに僕に押し倒されている。




「……#name苗字#」

「ふふ…ベッドがきもちいいですね…」


頬でスリ、とシーツの感触を確かめる彼女はこれから僕に食べられるなんて1ミリも思っていないようだ。ベッドが気持ち良い?当たり前だ。僕がいいところを事前に調べて予約までしたんだから。
とろりと溶けそうな瞳は思ったより僕をしっかり捉えていた。


「おかしいなあ、こんなに弱くないんですよ」

「──うん」


僕だってそうだ。仮にも酒の名前がコードネームの組織に潜入しているわけだし、ザルまではいかないが強い。
彼女の顔の横に両手をついたまま、雑談がはじまる。赤みを帯びた頬に目尻に浮かぶ恐らく生理的な涙。恐る恐る伸ばされた白い手は僕の頬を包み込んだ。



「ふる、やさん」

「…ん?」

「私、酔ってないです。ふわふわ、してるけど」

「うん」



そうだ。そうだった。一瞬忘れそうになった。僕が彼女をここに連れてきた理由を。まだ何かを紡ぎそうな唇に静かに耳を傾ける。むにむにと頬を伸ばされたと思えば顔を近付けられ、なすがままの僕。



「でも、はじめて、なんです。恥ずかしい話」

「……しってる、さ」

「ふふ。ですよね。むかーし言ったような気がします。だから────」


ぐいっと顔を引かれ、額に柔らかな感触。


「優しく、してくださいね」


その艶めかしい唇に僕はうまく返事ができなくて、代わりに噛み付いた。

全件表示 ◇◆ 2019/05/22 07:28

シャワーから流れるのはお湯ではなくて水だ。冷たい水が私の意識をはっきりとさせる。「きもちわる…」吐き捨てるように言ってもシャワーの音が掻き消してくれる。どれだけこの身を清めようとも、過ぎてしまったことは戻せないんだ。「っ、ふ……」涙も汚れも全部洗い流してほしかった。初めてのハニートラップは成功だった。…情報を入手する、という点では。だけど一歩間にあわなかった。油断、していた。気が付けば私はターゲットに組み伏せられ、あろうことか抱かれてしまった。嫌悪感が鉛のように身体の重石になって、シャワールームから出てこない私を呼ぶ声がする。「──、」その声が誰かを認識したとき、私の身体は芯から冷えていく感覚に陥った。なんで、どうして、此処に…!!「……帰ってください…っ」絞り出した声は彼に届いたようで、少しの間のあと「帰らない」そうきっぱり言って浴室の扉が開く音がした。振り返らない、振り返られない。「…女性のシャワー中に入ってくるのは如何なものかと」「ただの冷水を浴びてなにがシャワーだ」「暑かったので」「嘘を付くな」後ろから伸びてきた手がシャワーの水を止めた。「ふる、やさん」「……悪かった。僕の与かり知らぬところで、君にそんなことをさせるとは思っていなかった」──そう、そうだ。この案件は彼は関わっていなかった。なのに、なんで、どうして。「此処にいるんですか…」ぽたりぽたりと、髪から水分が落ちる。寒いのか身体が震える私を降谷さんは背中から抱きしめてきて。その温もりが、暖かくて回された腕に手を掛けて顔を埋めた。涙がぼろぼろと溢れる。涙も体の震えも、シャワーの所為にできるだろうか。「すみません」公安失格だ。覚悟が足りなかった。「次はこういうヘマ、やりませんから」抱きしめられる腕の力が強くなる。「"次"があると思うな。二度とさせない」「……降谷さん」

全件表示 ◇◆ 2019/05/22 07:25

日付も変わった頃、ため息を吐いた。…眠れない。休みだし、夜更ししようと決め、枕元に置いてある携帯に触れる。暗闇に携帯のライトがぽつりと照らされる寝室は、私一人が広いベッドに寝転んでいる。一人で眠るのには慣れている。はぁ、と息を吐きながらSNSを開いてTLの波を彷徨う。流れてくる情報は頭に入らずひたすらフリックして遡る。意味がない。なら眠れるように目を疲れさせてみよう。SNSを閉じて、今度はパズルゲームのアプリを開く。……ついつい熱中してしまった。これじゃあ彼に怒られる。良質な睡眠を、とかああだこうだと。カタリ、と寝室の扉が開く音がしてびくりと身体が震えた。気配もなく侵入してくるなんて、本来なら泥棒なのかと思うところだけど彼が選んだセキュリティの高い家だ。待ち望んでいた彼。「…起きてたんだ?」「…おかえり零」背中を向けたまま、ゆっくりと近付いてくる気配に無愛想に返事をした。帰ってくるとは思わなかった。「また、携帯見て。言っただろ?携帯の光は眠りを覚ますって」「んー明日、休みだからいいかなって」ぐるんと、半回転して、帰ってきた零と向き合う。ネクタイを緩めながら、仕方ないなと肩を竦めて、スーツが皺になるのもお構いなしに彼もベッドに潜りこんだ。「良質な睡眠はこれから零と取るから」携帯を投げ出し、あんなに広く感じたベッドが二人分埋まってしまった。零に近づけばぎゅうっと抱きしめてくれたので私もこれでもかと言うくらい距離を詰めた。ああ、このぬくもり、匂い。好きだなあ。それだけですぐに私の眠りを誘うんだなあ。一人で眠るのには慣れている。そうは言っても、やっぱり彼と毎晩一緒に眠りたいなあ。許される日が来るのかなあなんてネガティブ思考は彼の優しい掌が私の頭を撫でてきたので考えるのをやめた。今はただこのぬくもりに触れて眠りたかった。「一ヶ月ぶりかな……おつかれさま、零…」舌足らずな言葉だなと自分でも思いながら目を閉じた。「───おやすみ、……いつも一人にさせてごめんな」そんなことないよ、寂しいけど会えば目一杯甘やかしてくれるから。そんな言葉はもう眠気に負けて言えないけど、眠りに落ちる寸前、すりと零の胸板に頬擦りした。きっと今の私の寝顔は微笑んでいるし、零は、とびっきりの幸せそうな顔で私を見つめてくれているんだろうな、
───おやすみ、零。


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