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遠くでボールを打つ音が聞こえる。それと同時にテニス部の声も聞こえた。テニスコートの音がこんなに裏庭に響いて聞こえるなんて知らなかった。 「頬、見せてみろ」 強引にタオルを取り払って赤也の顔を覗き込む。見れば先程よりも引いた腫れ。これなら大丈夫だろう。 「そろそろ部活、行くぞ」 勝手に赤也の手を引いて歩き出す。何とかして真田に見付からない様にテニスコートに入らなければ、と策を練る。其処に着けばいきなり真田と目が合ってしまった。 「あちゃー…」 ドスンドスンと俺達の方へと足を進める真田。今まで練っていた策が水の泡になってしまった。後ろにいる赤也は完全にビビっているし。面倒な事になりそうだ、と心の中で覚悟した。 「何をしていた」 低く響き渡る声。其れは紛れもなく真田の物。 「お、俺「タオルが飛んだんで取るのを赤也に手伝ってもらってた」 赤也が驚いた様に俺を見ているが知らない素振りをする。 「ほう、其れだけで一時間もかかるものなのか」 いつの間にか練習をしていた部員達は手を止めて俺達を見ている。 「随分と高い木に引っ掛かってね」 「見え透いた嘘を付くな!」 飛んで来た手。其れは真田の手。でも俺にしてみればそんなの簡単に避けれた。体を少し横にずらして顔を背ければ、手は俺の頬に当たる事はなかった。 「一々怒鳴るな、耳が痛い」 「貴様…!!」 ギロリ、と真田が俺を睨んでいる。赤也はオロオロしている。周りの部員達は止めようか止めまいか悩んでいる。実際は止めたくても止められないのだが。 「そこまでだ」 この場を抑えた声。振り返れば部長の幸村精市。 「涼汰と赤也はグランド30周、他の部員は練習を再開しろ」 「幸村…!」 「真田、聞こえなかったのか?練習を再開しろ」 真田は納得のいかない顔をしたが、幸村には逆らえないらしく練習へと戻って行った。それに続いて他の部員もコートに戻る。 「赤也、走るぞ」 「え、あ…はい」 30周する為にグランドに向かう。幸村とすれ違う時に幸村から呟かれた言葉。 「後でちゃんと聞かせてもらうよ?赤也の頬が少し腫れている理由も、ね」 「さっきはどーも」 一応真田から逃げれたんだし、と付け足す。幸村の言葉に返事はせずに。だって面倒だから。一から十まで話すなんて疲れるだけだし。何よりも興味が湧かない。だから、気が向いたらって事にする。 (興味の湧かない事はしない)(何で赤也を助けたの)(…偶然興味が湧いたんだ) |
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