青空から始まる恋 | ナノ


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この家族が大好きだったんだと気づいた。

休日にはちゃんと俺達の事を考えてくれる父さん。いつだって優しく俺達を愛してくれていた母さん。俺の事を一番に考えて優しく笑っていた直太。父さんがいて、母さんがいて、直太がいて。それだけで幸せだったんだ。

父さんは仕事で毎晩帰りが遅い。その為に俺と直太が父さんの帰りを出迎えた事は記憶にあまりない。父さんが帰って来るよりも先に俺達は睡魔に負けて眠ってしまったから。そんな父さんだからこそ、休日は俺達と目一杯遊んでくれた。今思えば毎晩の仕事で疲れているはずなのに。太陽が昇って沈むまで遊園地に連れて行ってくれたり、一緒にゲームをしたりした。こんな父さんが俺と直太は大好きだった。

母さんはいつだって俺達を愛してくれていたし、優しく叱ってくれた。間違った事をしてしまえば優しく叱り、逆に良い行いをすれば全力で褒めてくれた。優しく微笑む母さんの表情は暖かい太陽みたいだった。そんな母さんと父さんが喧嘩をしている場面は俺の記憶の中には一度もない。いつでも二人は隣に並んで微笑み合っていた。そんな父さんと母さんを見るのが俺は好きだった。

直太は俺の半身とも言える存在だ。直太がいないと俺は成り立たない。逆に俺がいないと直太は成り立たないだろう。そう確信出来るほど、俺達はお互いが大切だった。直太は自分の事よりも俺の事を気にかける癖のような物があった。何を心配するにも俺が先。直太が自分を優先している所なんて記憶に一度もない。それは俺も同じで、俺自身よりも直太が大切だった。勿論、今でも。

「いつも側にあるから解らない」という言葉が俺には漸く理解出来た気がした。そうだ、いつも失って気づく事が多いんだ。何もかも気づくには遅すぎた。失ってしまったからこそ、俺はこの家族が大好きで愛しかったんだと気づいた。当たり前にあったモノが当たり前でない事に気づいた。失ってからでは何もかもが遅いんだとやっと気づいた。何もかもが遅すぎた。

「おはよう」

と、俺を起こして一番に挨拶をしてくれる母さんの言葉もかけがえのない言葉だった。あの微笑んでくれた一瞬の時間さえも。

「涼汰、直太、遊びに行くぞ!」

毎週の休みにはそう言って俺達を遊びに連れて行ってくれた父さん。普段家にいないからこそ、休みの日には俺達の事を一番に考えてくれていた言葉さえも。

「涼汰!涼汰!早く!」
「待ってよ、涼汰っ」
「涼汰、学校行こう」
「涼汰はいいな、テニスが出来るんだから」
「約束だよ?」
「いつか試合しよう」
「…涼汰、大好きだよ」

弾むような柔らかい声色で俺の名前を呼んでは微笑んだ直太。それさえも大事な時間で大切な記憶だ。俺の大事な片割れで、俺の大切な人。時々ケンカをしても、ずっと傍で笑ってくれると思い込んでいた。ずっとずっと「大好きだよ」と言ってくれると思っていた。



(今では懐かしい遠い記憶)(母さんの微笑みも父さんの笑い顔も)(直太の存在さえも)(全部、全部大切だった)


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