青空から始まる恋 | ナノ


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俺達には秘密があった。俺と直太しか知らない秘密。それはいずれ時が来たらみんなに教えるつもりだった。結局その時は来なかったけれど。やはり俺のせいで。

「今日も行く?」
「でも、母さんが…」
「大丈夫だって、行こう、直太」
「待ってよ、涼汰っ」

毎回のようにあの場所へ行く時の決まりのような俺と直太の会話。俺が誘うと直太は母さんにバレた時の事を考えて思い止まる。それを俺が半ば強引に連れて行く。そんな流れだった。直太が本気で嫌がる時の反応はもっと直接的に嫌という事をぶつけてくる。その時の反応に比べたらあの場所に行く事は別に嫌がってはいない様子だった。だから俺は直太を連れて行ったし、直太も俺に着いて来た。

「涼汰、気をつけてね」
「大丈夫だって。直太こそ気をつけて」

家から数百メートル離れた森の中。その中の狭い獣道を抜けると大きな石切場の上に出る獣道がある。岩が剥き出しの場所で未だに工事が続いていた。今は丁度昼休みの時間帯らしく作業員は誰もいない。石切場の隅に同じような獣道があって、それを抜けると俺達の秘密の場所に辿り着く。そこは俺達以外の人間を知らないような様子で青々とした葉を茂らせていた。

「直太、早く」
「ん…もう少し」

直太の手を引っ張って茂みから出る事を手伝ってやった。そうすれば直太は俺の好きな笑顔でお礼を言う。それだけの事を妙に恥ずかしく感じながらも視線を秘密基地に移した。木の枝で不器用ながらも組み立てられている俺達の秘密基地。壁と呼ばれる部分には家から持ち出した段ボールや要らない布が貼り付けられている。これが俺達だけの内緒だった。

「直太、早く作ろうよ」
「うん」

俺と直太はいつものように家から持ち出した不要な布とビニール袋を使って秘密基地を作り始める。今日は屋根の部分を作り上げる予定だ。段ボールにビニールを被せて防水加工を施すとそれをガムテープで固定する。

「涼汰、ガムテープ」
「ん。あ、袋取って」
「はい」

短い会話を交わしながら俺達は黙々と作業に取り組む。この時間が好きだった。俺と直太の二人だけ。ここは子供なら誰でもある好奇心を試す場所だった。大人に内緒で自分達の手で何かを作り上げたい。そんな淡い好奇心。

「早く作って母さんと父さんと秀一郎に見せようね」
「うん、楽しみだね」

決して遠くない未来の話をして俺達は想像を膨らませる。きっと父さんと秀一郎は驚くだろうな、母さんはきっと俺達を褒めてくれるし、いつもの優しい笑顔で頭を撫でてくれるだろう。そんな夢のような理想を膨らませながら、そんな幸せな想像をしながら俺と直太は会話を交わす。その時を考えるだけで俺は胸が踊った。父さんと秀一郎はどんな顔をするだろう、母さんはきっと褒めてくれる。

今日は屋根の部分を半分作り上げた。あと少しで屋根が出来上がるだろう。明日もこの場所に来て作りたかったけれどあまり頻繁には来れない。母さんに勘づかれては計画が台無しになってしまう。それに石切場の作業員の人に見つかっても駄目だ。

「…次は一週間後だね」

俺と直太が決めた事は、この秘密基地に来るのは週一回だけだという事。それ以上は来ないと決めた。それは俺達の内緒の決まり事で、完成するまで秘密基地を隠す為の条件だった。

「…早く完成させようね」
「うん」



(俺も直太も秘密基地を完成させる事を夢見て来た)(やっぱり俺のせいで)(それは叶わなかったけど)(今日も俺と直太は二人手を繋いで家まで帰る)


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