青空から始まる恋 | ナノ


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俺達が生まれて10年と2ヶ月が経った。偶然俺達はテレビで黄色いボールを追いかけている人を見た。その人は丸い棒のような物を持っていて、それでボールを打ち返した。たったそれだけの事なのに俺は酷くそれに興味を持った。直太だって例外ではなかったらしい。

「母さん、これ、これ!」
「これ、やりたい!」

母さんが言うにはそれはテニスと名前のついたスポーツで、偶然にも近所にテニスクラブがあるらしい。テニスに興味を持った俺達に母さんは快くテニスクラブに通わせてくれた。ただ残念なのは直太は生まれつき体が弱くテニスが出来ない事だ。当然10歳の直太は泣いたし、俺も悲しかった。俺だけがテニスをするなんて嫌だ。直太と一緒でなくては嫌なんだ。

「もう少し大きくなったら出来るようになるわ。それまで我慢よ、ね?」
「ほ、んと…に、っん…できるように…っなる?」
「ええ、きっと出来るわ」
「じゃっ…がま、ん…する…」

直太は乱暴に服の袖で涙を拭った。やっぱり直太は大人びていると幼いながらに俺は思った。俺だったら我慢なんて事は絶対に出来ないだろうから。

「俺も我慢する…!」

ずっと直太と一緒だったんだ。学校へ行く事も、学校から帰る時も、風呂に入る時も何もかも。それなのに俺だけがテニスを始める事は何故か直太を裏切るような気がした。

「涼汰が…僕のっ、せいで…テニスでき、ないの…は…もっと…っやだ」

そんな優しい直太の言葉と直太を裏切るような後ろめたい気持ちが混ざり合ってついに俺は泣いた。直太も今までよりも大きな声で泣いた。結局、母さんのお陰で俺はテニスをする事になった。直太はこれからゆっくりと体調を整えたらテニスをする事に決まった。母さん曰く、俺が先にテニスを習って直太に教えてあげればいいらしい。

「俺が直太に教えてあげるからね」
「涼汰に教えてもらうの楽しみだなぁ」

そんな遠くない未来の話をしながら俺達は二人で眠りにつくのが日課だった。いつか必ず一緒にテニスをしようと俺は約束したんだ、直太と。




「厘財涼汰、です!よろしく、お願いします!」

初めてのテニスクラブは楽しかった。テレビで見た人のように上手には打ち返せなかったけれど、ラケットにボールが当たる度にそれだけで俺は嬉しかった。新しい友達も出来た。大石秀一郎という名前の男の子で、テニスクラブに入ったばかりの俺を気にして声をかけてくれた優しい子。俺と秀一郎は直ぐに意気投合してお互いの家に遊びに行ったりした。

「厘財直太、です」
「あ、大石秀一郎…で、す」

秀一郎は珍しく緊張しているらしく言葉がたどたどしかった。そんな秀一郎を直太は気に入ったらしく俺達は3人でよく遊ぶようになった。ただ残念なのは秀一郎とは小学校が別々だった事。

「直太、秀一郎!早く、早く!」
「ま、待ってよ、涼汰…!」
「涼汰も…秀一郎も…速すぎ…!」

俺が先頭を走って、直太を気にかけながらも秀一郎は俺を追いかける。最後尾の直太は俺と秀一郎の後を必死に着いて来る。こんな風に3人で一緒に遊ぶ事が何よりの楽しみだった。

「涼汰は僕の憧れだよ」
「涼汰と直太は本当に仲いいね」

そう言ってくれた秀一郎の笑顔も、照れる俺の笑顔も、嬉しそうに笑う直太も、キラキラに輝いていた。こんな楽しい毎日が続くと思ってた。




(そう、輝いていた)(それは過去形での表現で、)(決して現在進行形での表現ではない)(あの頃は毎日が楽しかった)


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