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今から15年と3ヶ月前の出来事。俺達は母親と父親の二人から生を授かった。母親と父親の仲はよくて理想の両親そのものだった。俺はこの家族が大好きだった。もちろん、アイツもこの家族が大好きだった。俺とアイツはいつでも一緒。小学校に行く時も、遊ぶ時も、帰る時もいつでも一緒だった。お互いの存在がお互いに大切だった。いつしか二人の合言葉は「大好きだよ」になっていた。 俺は直太が大好き、直太は俺が大好き。こんな関係が、こんな日常がいつまでも続くと幼い俺は根拠なんてなくとも確信していた。だってお互いが大好きなんだから離れる事なんてないだろう、と。 今から7年前。俺達が生まれて5年が経った。春のある晴れた日、今日も俺達は二人一緒だった。 「お母さん、お腹すいた」 「あら、ちょっと待ってね、直太」 「うん」 俺にそう言って母さんはキッチンに立って簡単におやつを作り始める。直ぐに俺の鼻をくすぐるようないい匂いが香る。今日はホットケーキらしい。 「お母さん、今日はホットケーキ?」 「そうよ、手を洗って来なさい、涼汰」 「ちがうよ、お母さん、僕が直太だよ」 え、と母さんが瞳を丸くして呟いた。母さんが驚いた時の癖は第一声を「え」と言う事だ。母さんが俺と直太をパチパチと交互に見つめる。 「もう、涼汰は母さんをからかわないの」 コツンと優しく頭をやんわりと叩かれた。痛いとは感じない。むしろ笑いが込み上げる。また、母さんは騙された。また、俺は母さんを騙した。 「涼汰、僕の真似しないでよー」 「だって楽しいんだもーん」 俺と直太は二人でテーブルの回りをくるくると走り出す。俺が逃げて、直太が俺を追いかける。真似された直太は怒っているなんて様子じゃなくて笑っている。俺も笑っている。 厘財涼汰と厘財直太は双子だ。 一応俺が兄で直太が弟。どだけどちらが上かなんて俺達の間では関係なかった。どちらも上か下かなんて比べようがない程にお互いが大切だったから。もちろん、母さんも父さんも俺達を等しく愛してくれた。それだけで十分だった。 「涼汰」 「直太」 「「大好きだよ」」 いつものように同じ合言葉を呟いて目を閉じる。部屋は一緒。ベッドは別々だけれど隣り合っている。直ぐ横を向けば直太がいる。それだけの事なのに嬉しかった。 同じ服を着て、同じ髪型、同じ喋り方。俺達の見分けが付かない大人を戸惑わせる事が俺は楽しかった。直太のフリをする事も同じように楽しかった。逆に直太は俺がそうする事に反対だったけど。直太は歳の割りには大人びていて、大人に好かれている優等生だった。逆に俺は好奇心旺盛で、同い年くらいの子供に好かれる子供だった。見た目は全く同じなのに内面は全く逆だった。直太は心配性で好奇心旺盛な俺をいつも心配した。例えば俺が叔母さんの家の押し入れには何があるのだろうと思って勝手に探ろうとした時、直太が飛んで来て直ぐに俺を連れて押し入れから離れた。また、風呂の中でどれだけ息を止められるかを試して軽く溺れた時も直太は涙目になって俺を叱った。直太は心配性だなぁ、なんて思いながら直太のたどたどしい説教を聞いていた。心配される事が鬱陶しいとは全く感じなかった。それどころか直太が俺を心配してくれる事が嬉しかった。だって心配してくれるって事は少なからず俺を大切に思ってくれてるって事だろう? (こんな二人の楽しい日々が)(ずっと続くと思ってたよ)(俺は幸せで楽しかったんだ)(直太はどうかな?) |
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