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最近、俺の身の回りで変わった事がある。それは切原赤也が俺の練習を毎日の様に観察している事。 「…何してんの?」 「見てるだけっス」 いやいや、見てるだけじゃねぇだろ。目がデータ取ってる時の蓮二みたいに怖いんですけど。流石にノートは持っていないけれど。 「…何で観察されてんだ?」 「涼汰が赤也に勝ったからじゃろ」 「じゃ、データ取ってリベンジしようって事かよ…」 面倒だな、と溢した時にふと思った。 「雅治は勝ったのか?」 「プリ」 出たよ、詐欺師。こうなったら雅治は絶対に口を割らない事は体験済みだから深くは追求しない。 「あぁ、面倒くさい…」 「涼汰についてのデータ?」 「そうなんスよ」 偶然、休憩中に水を飲みに行ったら聞こえた話し声。…この声、蓮二と赤也?話の内容は案の定、俺のデータについて。全く良くやるな、赤也は。呆れつつも、物陰に隠れながら二人の会話に耳を澄ませる。 「…立海大付属中等部3年生。テニス部所属。カウンターパンチャー。冷静沈着、無頓着、無表情、自由奔放。左側は長く、右側は短い髪型が特徴。常時は右目に眼帯、テニス時は左目に眼帯を付けている。ピアスやアクセサリーなどが好み。好きな物は「ストップ、柳先輩!」 自分には全くと言っていいほど必要のないデータを紹介されて赤也は蓮二を止めた。容姿や好きな物のデータなんて紹介されても意味がないのだから。 「そんなんじゃなくてテニスのデータっスよ!」 「そうか」 「弱点とか苦手なコースとか…!」 「教えてやっても良いが…そろそろ休憩が終わるぞ」 「げっ、真田副部長に怒られる!」 蓮二の言葉に赤也は慌てて走ってコートの方へと行ってしまった。余程真田に殴られたくないらしい。まぁ、遅れただけで殴る真田もどうかと思うが。 「…行ったぞ、涼汰」 バレていたのか、と思いつつも物陰から出れば細められた蓮二の瞳が俺を捉えた。 「…悪いな、蓮二…」 「疲れているみたいだな」 「…そりゃあ、な」 毎回練習を観察されたら疲れるだろ、と付け加えれば蓮二は苦笑いを溢した。あの赤也が俺を観察する瞳を思い出しては鳥肌が立ってしまう。 「何かいい方法ねぇーの?」 「…ふむ」 考え込んでしまった蓮二を見て不意に思い出した。確か休憩時間って残り僅かなんじゃなかったっけ?だとしたら急がないと真田に殴られてしまう。 「そーいえば…休憩終わるんじゃねぇ?」 「問題ない」 俺の心配は蓮二の言葉に一掃された。 「休憩時間終了まであと11分2秒ある」 「…流石参謀」 つまりは赤也に嘘の休憩終了までの時間を教えたって事か。雅治の言葉を使って言えばアレだ。怖いねぇ、ウチの参謀は。 「あるとすれば…赤也の苦手な物を使う事だな」 「赤也の苦手な物、か…」 真田はどうだ、と聞いた蓮二に勢いよく反応を示した。 「…俺も苦手だからヤだ」 嫌いなのではない。勿論好きでもない。あの堅物な所が苦手なんだ。俺は自由が好きだから。性格からして合わないのだと思う。だから対立する事も対立ある。 毎回、何だそのピアスは、何だその髪型は、とか言ってくるけど俺からしたら何だその老けた顔は、と言ってやりたい。それほどお互いの馬が合わない。 「赤也って真田に勝ったのか?」 「なぁ、赤也」 「?」 「また、試合しような」 「本当っスか!?」 嬉しそうな顔をする赤也に蓮二と考えた台詞を告げた。これなら赤也も諦めるだろうと蓮二のお墨付きを貰った台詞だ。 「赤也が真田に勝ったら、な」 俺が先程の言葉を告げるとピシリと赤也の動きが止まって、赤也の目が点になった。やっぱり蓮二の言った通りだ。 「…勝ったらっスか?」 「うん」 「俺が…真田副部長に…?」 「うん」 じゃないと試合しないから、と言葉を発して逃げた。これで暫くは大丈夫だろう、と蓮二も言っていたし平気だろう。安心して俺は練習に取り組む為にコートに足を進めた。 (次の日、赤也の観察対象は真田になっていました)(めでたし、めでたし) |
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