青空から始まる恋 | ナノ


16




あれ?呼吸ってどうやってするんだっけ?酸素ってどうやって肺に入れるんだっけ?肺の中の空気はどうやって出すんだっけ?何も解らない。




「涼汰先輩!!」
「涼汰!!」

俺の発作を知っている赤也と雅治だけが驚いている立海と青学の中から一番に駆け付けて来た。それからワンテンポ遅れて立海が俺の付近に集まり、青学が顧問の先生を呼びに行く光景が他人事のように見えた。

「げほっ!が、げほっごほっ!っぐ!」

上手く酸素が取り込めなくて苦しい。喉が焼けるように痛い。普段から簡単に出来ていた吸って吐き出すという単純動作が全く出来ない。

「涼汰!ゆっくり深呼吸しんしゃい!」

無理だよ、雅治。それが出来るのならばとっくにしてるさ。背中を擦ってくれているはずの雅治の手の感触さえも解らない。感じる事が出来ない。

「涼汰先輩!薬、早く!」

赤也が俺の口に薬の容器を差し出すが、どうやって使うんだっけ?俺は今までこの薬をどうやって使用していたんだろうか。駄目だ、喉と心臓と頭が痛くて何も考えれない。

「先輩!何で吸わねぇんだよ!?」

赤也が苛ついた様子で俺に薬を相変わらず差し出すが使い方が解らないんだから受け取りようがない。受け取りたくても受け取る事が出来ない。

「仁王!何だこれは!厘財は…!?」
「今話しかけるんじゃなか!黙っとけ!」

苦しい、しんどい、呼吸が出来ない、誰でもいいから俺を助けてよ。俺、死ぬのかな。不意にそんな縁起でもない事が頭に浮かんだ。死、かぁ…。もう何でもいいよ。この苦しさから解放してくれるのなら。

「涼汰、呼吸が出来んのんじゃな!?」

確かめるように雅治が俺の肩を揺さぶる。その問いかけに必死に頷いた。そういえば試合中断してしまった。せっかくの練習試合の機会を潰してしまって申し訳ない。

「涼汰、すまん」

何がと頭で考えるよりも先に俺の目の前には雅治の整った顔があった。ぴったりと俺の唇を覆うように雅治の口がくっついていた。

「んっ…ん゛っ…んん、…!」

咳をしたくても雅治に口を塞がれている為に咳が出来ない。苦しい。仕舞いには鼻まで雅治に掴まれて完全に呼吸をする部位を塞がれてしまった。あ、もしかして、雅治、俺を楽にしてくれるの?

「仁王、何を!」

「黙れジャッカル!何か案があるに違いない!」

先程は雅治に怒鳴られたくせに偉そうにジャッカルを怒鳴るんじゃねぇよ、真田。なんてこの場に相応しくない事を頭の片隅で考えつつも本当に苦しい。抵抗しようにも両手は器用に雅治の片手で押さえつけられている。

「ん゛ぅ!?…っん…!」

俺の唇を塞いでいた雅治の口が若干動いたかと思うと空気を吹き込まれた。肺が今まで欲していた空気が吹き込まれ少しだけ楽になって安堵する。だけどその安堵も束の間で、次の瞬間にはもっと空気が欲しくなった。

「赤也、薬だ!」

蓮二が赤也から無理矢理に薬を奪い取ると雅治が唇を離した。俺が再び空気を吸って咳き込む前に蓮二が俺の口元に強引に薬を添えて押さえつけた。

「んぅ…!はっ…はっ…はぁ、はぁ…ん、はぁ、はっ!」

気体状の薬品が気管支を通って肺に浸透していくのが解る。いつもの感触、いつもの治まっていく感覚。違うのは治まる速さ。今回の発作は普段より酷かったから。

「ぜぇっ…はぁっ…はっ、はぁ…う、」

立海レギュラーが口々に俺の名前を呼んでいるのが解る。だけど今の俺の耳には自分の呼吸音しか聞こえない。みんなの口が開いたり閉じたりして少しだけ怖い。心配してくれるのは有り難いけど、少し眠らせて。




(心配そうな表情の青学メンバー)(泣きそうな表情の立海メンバー)(悔しそうな雅治)(今にも泣き出しそうな赤也)


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