青空から始まる恋 | ナノ


05




鳴り響く着信音。瞳を開けば着信を告げる携帯の光が眩しく写る。携帯の光以外は暗くて何も見えない。

「…っん…あ、れ…?」

ゆっくりと体を起こす。改めて辺りを見回せば部室である事が解った。何で俺は部室にいるんだろうか。落ちたままの資料、俺が入った時は外が明るかった為に電気を点けなかったが、今では時間が経ったらしく部室内はは真っ暗だ。また倒れたんだ、と漸く解った。

「…情けねぇーな」

また倒れた。今日だけで2回だ。本気で体力が衰えているのだろうか。いや、衰えているなんて問題ではない。前回と今回に共通するのはあの事だ。

「……くそっ」

思い出したくなくて先程まで鳴り響いていた携帯を開いた。着信履歴は3件。全て赤也からだった。最初の着信が6時。続いて7時、8時と1時間ごとに着信が入っていた。留守電が1件。再生すれば心配そうな声色で「もう帰ってますか?連絡下さい」と慌てた様子の赤也の声が流れた。携帯の時計表示画面を見れば現在8時6分。いくらなんでも俺が資料を見るだけに3時間もかかる事を不審に思って電話を描けてくれたに違いない。

「…はぁ…」

何やってんだよ、俺は。いつも誰かに迷惑と心配をかけてばかりだ。情けなくなりつつも一番に赤也に連絡を入れようと携帯を手に取る。見慣れた電話番号を選択すると発信ボタンを親指で押した。

ワンコール…ツーコール…。

「涼汰先輩っスか!?」
「…赤也、耳元で叫ばないで」

赤也の突然の声に俺の耳がキーンとする。すみません、と沈んだ声で謝る赤也に慌てて言葉を紡いだ。

「や、赤也が悪いんじゃなくて…何て言うか…ごめん…」
「…先輩……何かありましたか?」

少しの沈黙の後に赤也が発した言葉は的を得ていた。無かった訳ではない。しかしあの事は赤也に話すべきなのだろうか。

「…いや、何もなかったよ」

悪い。ごめんな、赤也。ただ赤也にでもあの事は言えない。言ってはいけないんだ。俺が知っているだけで十分だから。

「…そうっスか」

あっさりとした返事を返した赤也と嘘をついた俺は黙り込んでしまった。沈黙が痛くて「今から家に帰るからごめんな」と一言伝えて通話終了ボタンを押した。ごめんな。赤也、ごめん。せっかく心配してくれたのに。だけどごめん。今は頭が混乱してて何も考えられないんだ。赤也を傷付けないようにする事さえも。床に落としたままだった資料を一枚一枚拾う。蓮二に一応謝っておいた方がいいのだろうか。そんな事を考えながら資料を拾う。最後の一枚に手を伸ばしかけて、手を止めた。知っている名前。俺が覚えていた姿からは大きく成長して、今では大人びた表情をしている。この写真も隠し撮りだろうか。

「本当に…副部長…なんだ、な…」

資料に蓮二の字で書かれた「副部長」という文字を指でなぞった。俺が知っている人柄からは大きく変わっていて、3年間という歳月が俺にのし掛かった。

「まだ俺の事を…憎んでる、のか…?」


なぁ、秀一郎…?




(呟きは暗い空間に消えた)(真っ白な紙に黒いインク)(真っ白な俺の脳中に黒い想い)(忘れる事はないけど思い出したくはない)


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