青空から始まる恋 | ナノ


04




「涼汰先輩、帰らないんスか?」
「悪いけど、先に帰ってて」

青学の資料見て帰るから、と赤也に一言告げると俺は部室に戻った。流石に対戦相手の事を何も知らないのは失礼だろうから。気になるのは越前って1年生。確か青学は2年からじゃないとレギュラーになれなかったはずなのに。

「1年でレギュラー、ね…」

余程テニスが上手いのか、他で協力なコネがあるのか…。あの幸村が要注意人物だと言ったんだから前者だと思うけど。部室には俺一人しかいない。幸村と真田、蓮二はこれから近くのストテニで打つらしい。流石に三強と謳われるだけある。ブン太は弟の世話があるらしくジャッカルと一番に帰った。雅治は柳生と一緒にスポーツショップに寄るらしい。

「えーっと…確かこの棚の中に…」

ゴソゴソと普段は蓮二が管理している資料棚を漁る。ちゃんと蓮二に使用許可は貰った。もし許可なしで使おうものなら後が恐ろしい。

「…あった」

真新しいファイルに綴じられた資料を発見した。表紙には青春学園と綺麗な達筆で書かれている。何時見ても蓮二の時は綺麗だ。もう書道家の資格を楽々取れると思う。パラパラと俺が資料のページを捲る音が部室に響く。最初のページには青学の解説とテニス部の練習傾向。どうやって調べたんだよ、こんな極秘情報。乾汁の主な素材って…。あ、手塚国光はっけーん。

「んーと…何々ー?」

手塚国光、青学テニス部部長。179cm58kg、左利き、生徒会長、O型、クラシック・洋書が好き…。いや、これって何のデータ?流石蓮二、テニス以外のデータも収集しているとは…。

「こんなんじゃなくて…」

もう一ページあってそれにはテニスについてのデータがびっしりと書き込まれていた。得意技、苦手コース、得意コース、得意技を打つ直前の体勢。一字一句逃さずに頭に叩き込む。ペラリ、と次ページを捲れば越前リョーマの文字。まだ幼さの残る顔立ちと生意気そうな表情。この写真どうしたんだろう…。恐らく青学に調査しに行った時に撮影したらしいが、どう見ても隠し撮りだろう。

「越前リョーマ…左利き、視力は全く問題なし、赤也と同じ一本足のスプリットステップ、か」

コイツが要注意人物。苦手コースと得意コースを手塚と同じように頭に叩き込んだ。越前リョーマの癖さえも暗記する。対戦相手に癖がないと俺のテニスは成り立たないから。癖や試合中の仕草から相手が次に打つであろうポイントを瞬時に判断する。反射神経の良さが唯一の俺の自慢だ。パラパラとページを捲る。菊丸英二。桃城武。乾貞治。不二周助。海堂薫…。次のページを捲って視界に入った名前に驚愕した。バサリと音を立てて資料が俺の手から落ちた。蓮二の資料だから大切に扱わなくてはいけないのに、早く拾わなくてはいけないのに、頭が痺れて体が動かない。

「…な…ん、で…」

早くなる鼓動。落ち着けと頭では念じても何も変わらない。荒くなる呼吸。聞こえる音が自分の呼吸音だけになる。


「涼汰は僕の憧れだよ」
「涼汰と――は本当に仲いいね」
「何で…涼汰…――は…どうして」


嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ。俺は思い出したくないんだ。止めろ、止めろよ。嫌だ、思い出したくない。痛い。何で。俺は、俺が、俺はただ―――…。


「…嫌だ…っ…!」




(何でいるの?)(何で青学に?)(何で…どうして)(副部長なんてやってるの?)

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この蓮二の資料は前編の最後の方に柳生と蓮二が作っていた資料だったりします。


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