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メールを送ったのが1時間目の授業の真っ最中。今は1時間目の授業終了10分前。恐らく1時間目の授業が終わった後の休憩時間に赤也はメールを見るのだろう。赤也はメールを見るだろうか。メールを見て屋上に来てくれるのだろうか。来たら何から話せばいい?今のうちに考えなくてはいけないのに頭が働かない。考える事が嫌になって空を仰いだ。空は快晴。東の空からは薄暗い雲が昇っているのが見えた。こっちに来るまではかなりの時間がかかるだろう。 「どうすればいいんだろーな…」 ぽつり、と呟いた言葉は風に飛ばされた。多分今俺が言おうと言葉を決めても、赤也を目の前にすると頭が真っ白になって言えないだろう。そんな事は容易に想像出来た。不意に時計を見ると授業終了15秒前。結局何も考えていない。いや、どうせ頭中が真っ白になるのだから考える必要はないのだが。 「じゅーう…きゅー…はーち…」 カウントダウン開始。 7、6、5、4… 「さーん…にー…いーち…ぜろ」 キンコンカンコンと大音量で鳴り響く立海のチャイム。それが1時間目終了を告げた。さて、赤也は来るだろうか。赤也から別れ話をされない事を願うだけだ。まさかブン太に殴られるなんて、と先程の出来事を突然に思い出した。喧嘩事等が嫌いそうにブン太は俺の目には見えていた。口の出血した痕を指で触れれば小さな痛み。いや、あれは喧嘩事ではないな。俺が一方的に悪かったから。結局、ブン太にも雅治にも迷惑をかけた。ブン太にはちゃんと俺が悪いって事を教えてもらったし、雅治には慰めてもらった。今振り返れば自分がどれだけ愚者だったのかが解る。 「もう、逃げねぇ…」 また呟いた言葉。今度は風に飛ばされれ事はなく、自分の耳にちゃんと届いて聞こえた。キンコンカンコンとまたチャイムが鳴り響いた。休憩時間が終わって2時間目が始まる合図。赤也は、来ない。メールの送信履歴を見てもちゃんと送信されている。つまりは、赤也がメールを見ていないのか、メールを見たとしても俺と話したくないのか。前者である事を祈ろう。 ガチャンと錆びたドアの開く音が背後で聞こえた。振り返れば待ち焦がれた人がいた。俺が会いたかった大切な人。 「…赤也」 急いで来たのだろうか。若干息が上がっている。ちゃんと真正面から赤也を見たのは何日ぶりだろう。 「…スイマセン、遅れました」 「や、いーよ。大して待ってないし」 未だに屋上のドアの入り口に立ったままの赤也。俺はフェンスに寄りかかったまま。 (痛い沈黙) (何から話そうか)(聞くのは怖いよ)(でも本当の事が聞きたい)(教えてほしい) |
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