青空から始まる恋 | ナノ


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今日はちゃんと学校に行った。朝練には出なかったけど。ちゃんと解ってるんだ。俺は逃げている、と。真実を聞きたくなくて赤也から逃げている。朝練をサボって教室に行くと誰もいなかった。まぁ時間が時間だから。自分の机にカバンを置くと屋上に上がった。

「……よぉ」

屋上への錆びたドアを開くと赤髪の甘党がいた。久しぶりに見た気がする。と言っても2日ぶりなのだが。

「…朝練は?」

俺も人の事をとやかく言える立場ではないけど。テニスコートからは部員達の声が聞こえてくる。ついでに真田の怒鳴り声も。

「ここなら…涼汰が来ると思ったから」

ぽつり、と呟いたブン太はゆっくりと俺に向かって足を進める。俺が来ると思ったから?どういう事か全く解らない。ブン太の心裏が掴めない。

「ブン太、何が…」

言いたいんだよ、という俺の言葉はブン太に届く事はなかった。左頬に鋭い痛み。突然の衝撃によろめく俺の体。

「な、にすんだよっ…!」

ブン太に殴られた、と理解したのはコンクリートに尻餅を着いたから。正面から見たブン太の顔は憤怒でいっぱいだった。

「ふざけんな!!」

早朝の青い空にブン太の怒声が響いた。

「赤也が好きだって、涼汰は言ったよな!?」

あの時も屋上だった。事故でキスして気まずかった俺と赤也。やっと自分の気持ちに気付いた俺がブン太に言った言葉。

―――…赤也の事、好き、みたい、だ

「お前は好きな奴が泣いてるのに知らん顔して放っておくのかよぃ!?」
「は…!?」

泣いてるのに?好きな奴が?赤也が?

「涼汰はただ逃げてるだけだろぃ!?」

俺の顔がカァッと一瞬で赤くなるのが自分でも解った。先程の疑問が消えるくらいに。図星だったから。ブン太の言葉が。

「うっせぇな…!ブン太に俺の何が解るんだよ!?」

コンクリートに着けたままだった自分の体を起こすとブン太を殴り返した。よろめくブン太の体。

「怖いんだよ!好きな奴から拒絶されんのがどんなに怖いかブン太は知らねぇだろ!?」

それが大好きで大切な人なら尚更だ。チャイムが鳴ったのが遠くで聞こえた気がした。1時間目が始まったらしいが、そんな事どうでもよかった。

「動きたくても俺は動けねぇんだよ!」

本当は赤也の口から聞きたい。何故避けたのか。何故話してくれないのか。聞きたいけど聞きたくない。相反する俺の気持ち。

「それが逃げてんだよ!」

ブン太が俺の胸ぐらを掴む。俺の方が背が高いのに今のブン太は俺よりも大きく見えた。

「涼汰は逃げるしか出来ねぇのかよ!?」
「っ!」

ブン太に殴られた頬が痛かった。熱を持ったようにジンジンと疼く。口の中を切ったらしい。血の味が口内を満たす。

「……赤也が」

俺の胸ぐらを離して距離をとったブン太が言葉を紡ぎ始めた。俺は口の端から流れる血を拭き取りながらそれに耳を傾ける。

「どうしよう、涼汰先輩に嫌われても仕方ない事をした、って涙声で電話して来たんだぞぃ」

ブン太も口の端から流れている血を拭き取った。物腰は静かだが、まだブン太は怒っているようだ。

「お前、昨日仁王を泊めたんだってな」
「…泊めたけど?」
「それが赤也を傷付けるって事を考えなかったのかよぃ?」

は?てか、何で雅治が来た事知ってんだ?雅治が他人に言うとは考えられない。という事は…。

「…夢じゃなかったんだな」

ぼそり、と呟いた俺の言葉はブン太に聞こえていなかったらしい。

「赤也は、っと。…俺が言えるのはここまで」

何かを言いかけてブン太は口を閉じた。言いかけるんなら最後まで言えばいいのに。でも俺が赤也本人から聞かないと意味がない事だっていうのは解った。

「反省したんなら赤也と話し合えよぃ」
「…ブン太、勘違いしてねぇ?」
「あ?」
「雅治とは何もない。俺は赤也の事が好きだからな」

あの日のように、赤也が好きだとブン太に告げた。その事に満足したらしいブン太は俺に悪かったな、と告げて踵を返した。



(携帯の新規メール画面を開いた)(メールの宛先は勿論赤也に)(たった5文字を打ち込んだ)(お、く、じ、ょ、う)


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