10 |
現実か夢か解らない不思議な物を見た。俺は寝そべっていて、部屋は暗く、聞こえる音は誰かの話し声。音源は隣から。 「…お前さん、何を考えとるんかのぅ?」 …誰だっけ、この声。知っているはずなのに頭には霧がかかったようにハッキリとしない。体を起こそうとしても重くて指一つ動かせない。視線だけをずらせば銀髪が見えた。 「別に俺が涼汰の携帯に出てもえぇじゃろ」 涼汰…?涼汰って誰だっけ?あぁ、俺の名前か。俺の携帯で銀髪の人は誰と何を話しているのだろうか。 「俺は言ったはずじゃがのぅ?」 何を言ったんだろうか。カーテンを閉めていない窓から入り込む月の光と街頭の灯りが酷く幻想的だった。まるで今は夢の中だ、と言うように。 「何にせよ、涼汰を傷付けたのはお前さんじゃ。忘れんさんな、赤也」 赤也?赤也って誰?解らないのに知っているような気がしてならない。教えて、と手を銀髪の人に伸ばそうとしたけど、無理矢理持ち上げた瞼が限界だった。瞼が視界を遮って真っ暗に。 「…んー…」 ごろり、と寝返りを打つ。 「…涼汰」 「、んー…?」 夢の中の銀髪の人と同じ声がした。…夢の中?あれは夢だったのだろうか。夢にしては現実味のある声だった。でも現実にしては酷く幻想的で神秘的な映像だった。 「涼汰、起きんしゃい」 「ま、さは…る?」 「他に誰がおるんか?」 目を開くと雅治がいた。視線を横にずらして時計を見れば6時37分。今日は水曜日。つまりは学校があり、朝練もある。寝起き特有の気だるさ。思考回路は活動停止中。あぁ、もう40分だ。朝練に行かなくては。だけど行けば赤也がいる。どう接すればいいのだろう。いや、接する必要はないのだろうか。停止中の思考回路はショート寸前。 結果、考える事を止めた。 「涼汰学校行かんのんか?」 「んー…サボる…」 再び布団に潜り込んだ俺を見て雅治は溜め息を一つ吐いた。許してよ、雅治。行きたくない時だって誰にでもあるだろう? 「俺は今日は絶対に行かんといけんのんじゃが…いいんじゃな?」 「うん、何か乗り気しねぇし…」 そうか、と言葉を一つ発して雅治は俺の傍から離れた。あぁ、眠い。欠伸を一つすると瞼を閉じた。 「涼汰…泊めてくれてありがとナリ」 部屋を出る際に雅治が呟いたのが聞こえた。それに手を挙げる事で返事をすると意識を夢の中に投げ入れた。 目が覚めると11時38分。今度は夢を見なかったらしく、すんなりと起きる事が出来た。 「…腹減った」 そういえば朝飯食ってなかったな、と思いつつキッチンに立つ。冷蔵庫から卵とハムを取り出すとフライパンで焼いた。油を敷く事も忘れずに。テレビを点ければ知らない人が今日のニュースを話している。作ったばかりのハムエッグを口に運びながらテレビを見る。不意に自分の携帯に目線が動いた。…俺は赤也に電話すべきなのだろうか。そして謝るのが今の俺にとって最良の選択なのだろうか。手を携帯に伸ばしかけて、止めた。もし拒否されたら?赤也から別れを告げられたら?…怖い。どうしようもなく、それが怖い。何故赤也は突然俺を避けたのだろう。もしかして赤也は俺が嫌いになったのだろうか。解らない。 俺は、赤也が、わからなくなっている。 (グルグル回る思考回路) (聞きたいけど)(聞けない)(聞きたいけど)(聞きたくない) |
<< >> |