06 |
ピンポーンと単調なチャイムが来客を告げる。近所に知り合いのいない俺にとって来客は珍しい。宅配業者かと思ったが携帯から新着メールを見ると慌てて玄関へと走った。 ――――――――――― date 06/12 19:31 from 切原赤也 subject: 今先輩の家の前いるんス けど、起きてますか? ――――――――――― つまり、この来客は赤也という事であって。俺は何だか無性に嬉しかった。 「赤也…!」 ガチャリとドアを開けば予想通りに赤也がいた。部活が終わって来たらしく髪からは汗がポタポタと流れていた。運動の直後で頬は赤く染まっている。何だか妙に色っぽい。 「…来ちゃいました」 照れたように笑う赤也を見て今すぐ抱き締めたいと思ったが我慢する。ここは玄関先で一応は人前だ。 「…涼汰先輩、風邪大丈夫っスか?しんどいなら、俺直ぐに帰りますよ?」 「…やだ」 玄関に赤也を招き入れてドアを閉めたと同時に赤也に抱き着いた。あー、懐かしいな、この抱き心地感。今日1日会ってないだけなのに久しぶりに感じる。やっぱり赤也を抱き締めると落ち着く。抱き締めた赤也からは運動後の汗の匂いと制汗剤の匂いが少しだけ香る。俺の腕にスッポリと収まる赤也。まぁ俺の方が身長が高いから当然と言えば当然なのだが。 「あのー…もしかして熱あります…?」 「んー…どうだっけ?」 ふわふわの赤也の髪を弄りながら適当に答えた。赤也の髪の触り心地は見た目よりも凄くいい。玄関で立ったまま抱き合う俺達。実際は俺が抱き締めているんだけど。 「赤也…」 少しだけ体を離すと赤也の唇に自分の其れを押し付けようとして、失敗した。ガツンと音が響いて俺は玄関に踞った。 「いってぇー…」 「え、あ、スイマセン…!」 赤也がキスしようとした俺を押し退けた。お陰でマンションの狭い玄関の靴箱に腰を強打してしまうという失態。地味に痛い。 「赤也ー…俺とキスするの嫌…?」 腰を強打した肉体的な痛みよりも実は赤也にキスを拒否された方が精神的に痛かったりする。 「そうじゃないっスけど…てか、熱あるんなら寝てないと駄目じゃないっスか!」 「多分赤也が思ってる程、重症じゃないんだけど…」 あれから寝室に連れて行かれ、布団に寝かされ、体温計で熱を計らされた。熱は37度8分。朝よりは下がった方だ。 「駄目っスよ、ちゃんと寝てなきゃ」 風邪薬何処っスかー、とタンスを色々探っている赤也。そーいえば今って赤也と二人きりだな、と熱で朦朧とする頭で思う。 「風邪薬あったっスよー」 赤也が水の入ったコップと一緒に薬を持って来た。よく考えれば最近は赤也と二人きりになっていない。そんな事を布団に入りながら思っていたせいか知らないが、急に赤也が愛しくなった。 「…涼汰先輩?」 薬飲まないんですか、と不思議そうに俺を覗き込む赤也の手を掴むと布団に引き込んだ。ちゃんと彼の手に持っていたコップは側の机に置いて。 「う、わ…!」 ボスン、と布団が音を立てて赤也を受け止めた。横になっていた俺の腕の中に赤也を収めるとぎゅっと抱き締める。 「ちょっ、涼汰先輩…!」 「…なに?」 「駄目っスよ、悪化しますって…!」 未だに俺の腕から逃れようと暴れる赤也に口付けた。先程キス出来なかった分も加えて。 「ん、…う」 無理矢理に閉じられた唇を割って口腔に入る。赤也の舌に自分のを絡めればひんやりと冷たい。いや、違う。俺のが熱いんだ。キスは段々と深く。始めは抵抗していた赤也も今では俺の背に手を回して舌を絡めている。お互いの舌が絡み合う音が部屋に静かに響く。 「っ…は」 唇を離せばトロンとした瞳で赤也が俺を見上げる。場所は布団の中。俺の下には赤也。あー、理性保ちそうにねぇかも。無性にムラムラする。 「赤也…いい…?」 主語は敢えて言わない。言わなくても解るだろうから。 「駄目っスよ」 まさかの赤也からのお預け宣言。無理矢理に好きな人を犯す趣味なんて俺にはないので赤也が嫌がるなら我慢する。 「…熱が下がったら、ね?」 あー、もう。前言撤回したい。耳元で、そんな甘えた声色で、囁くなんて反則だと思う。何だか赤也に負けた気がして、少しだけ悔しかった。赤也の胸に額を押し付けて赤也の匂いを吸い込む。 「…涼汰先輩、今日は甘えん坊っスね」 クスクスと笑う赤也に小さく口付けた。 (熱に侵される)(たまには風邪をひくのもいいな)(熱に侵された頭の片隅で)(そう思った) ――――――――――― 前回の話と続けちゃいました^^ 涼汰が風邪をひいて赤也に看病してもらうというベタな話が書きたかっただけです(笑) |
<< >> |