青空から始まる恋 | ナノ


05




きっと昨日の出来事が原因だったに違いない。俺はそう確信している。昨日の事があったから、今日の俺はこんなになっているのだ。



――――昨日

「厘財、待たんか!!」
「追っかけて来んな!馬鹿真田!」

時刻は夕方。部活が終了してからの出来事だった。何故真田が俺を追いかけいるのだろうか。遡る事、数時間前。

その日の6時間目、つまり1日の最後の授業。俺は英語の授業を気が乗らなかった為に自主早退(悪く言えばサボり)をして屋上へ向かおうとしていた時の事だった。同じく授業中、偶然体育の用具の故障を先生に伝えていた真田と出くわしたのだった。

「…厘財、今は授業中のはずだが?」
「あー、保健室に行く途中なんだよ」

じゃあな、と手を挙げて踵を返したまではよかったんだ。ここまでは問題なかった。

「あ、厘財君。君、昨日授業の時にいなかったから課題出してね」

真田と話をしていたらしい体育教師は俺に平然と言った。

「…昨日?」

流石に不信がる真田に内心ヤバいと思いつつも平然を装う。ここで慌てたら負けだ。

「あー…昨日も保健室行ったんだよ」
「あれ、保健室行ってたのかい?おかしいな、保健の先生からは何の連絡も…」

つまりだ、この体育教師が余計な事を口走ったせいで俺の自主早退がバレてしまったという訳だ。そして、昨日の回想の冒頭に戻る。

「授業をサボるなんぞ、たるんどる!」
「うっせぇーよ!サボろうが何だろうが、俺の勝手だろ!」
「今日こそはその曲がった思考回路を叩き直してくれるわ!!」

俺が真田から逃げて、真田が俺を追いかける。まさに二人で鬼ごっこの状態。何が楽しくて真田と鬼ごっこなんてしなくてはならないのだろうか。

「誰か、Help me!」

わ、今の俺の発音無駄によかった。なんて感心している場合ではない。よりによって頼りになりそうな幸村と蓮時は委員会で生憎の不在である。

「ブン太ー!」
「無理な事言うなよぃ!」
「ジャッカルー!」
「すまん、涼汰!」
「柳生ー!」
「真田君、やり過ぎでは…」
「邪魔をするな、柳生!」
「…すみません、厘財君」
「雅治ー!」
「…プリッ」
「赤也ー!」
「え、が、頑張って下さい、涼汰先輩!」
「ありがとな、赤也。って、違ぇよ!みんなの裏切り者ー!!」

片っ端から助けを求めてみたものの、誰も助けてはくれない。いや、助けられないというのが正しいのだが。

「くそっ…!ここなら着いて来れまい!」

散々走り回った俺は、グランドの角にあるプールのフェンスによじ登った。これならもう大丈夫だろう、と一安心して後ろを振り返れば、真田も俺を追って登って来ていた。もう軽くホラーだと思う。ゾンビに追いかけられるバイオハザードの主人公の気持ちが解った気がする。なんて、余計な事を考えていたせいなのか知らないが、運悪く俺はフェンスから足を滑らせた。つまり、俺は重力に従って落下する。ドボーンという間抜けな音と共に俺はプールにダイブした。




「ゴホッ…!」

そして今日。体の倦怠感と体温の上昇を不信に思い、熱を計れば38度2分。完璧な風邪。これも全て真田のせいだ。今日は学校を休んだけれど病院に行く気にはなれない。ほっとけば治るだろう。一応風邪薬は以前買っていた物があるが飲む気は全くない。現在16時58分。そーいえば朝から何も食べてねぇな、と思いつつも食べる気にはなれなくて布団に再び潜る。熱いし、腹減った気もするし、無性に寂しい。

「うー…」

唸る事しか出来ない。こういう時に一人暮らしって不便だと思う。誰も看病なんてしてくれないし。誰も心配なんてしてくれない。でも、例え俺が体調を崩してもあの親は俺を看病してくれるのだろうか。いや、してくれないだろう。解りきっている事を考えてしまった自分が馬鹿らしかった。

「あつい…」

布団から出てみたけれど体温は変わらない。頭の中が溶けそうなくらいに熱い。




(溶解熱のように熱い)(倦怠感)(寂寥感)(もうグダグダだ)


―――――――――――
まだ続く


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