青空から始まる恋 | ナノ


04




「3時間目、屋上」

それだけの文字が打たれたメールを見て溜め息を一つ吐いた。3時間目に屋上に来いって事らしいが授業をサボれと?とは思っても毎回のようにサボっているので気にしなかったが。




チャイムが校舎全体に鳴り響いて3時間目の授業が始まった事を告げる。俺は屋上。呼び出した本人はまだ来ていない。貯水タンクの裏に足を進めると其処は日陰となっていてちょうどよい場所だった。腰を降ろして背中をコンクリートに付けた。青い空が俺の眼帯を付けていない方の瞳に写る。そういえば以前もこうして空を眺めていた事を思い出した。その時発作が出たんだよな、と他人事のように振り返える。ガチャン、と屋上のドアを開く音がして誰かが来た。それが誰がなのかを確認しなくても解る。俺を呼び出した張本人だから。

「遅れてすまんのぅ」
「で、話って何?」
「まぁそう急ぎんさんな」

呼び出した張本人は悪気もなく謝り、俺の隣に腰を下ろした。ホイッスルの音がグランドから聞こえる。それに加わって男子生徒の声も。そういえばジャッカルのクラスが次の授業でサッカーをするって言ってたっけ。

俺と雅治の間には沈黙。BGMは笛の音と生徒の声。空からは心地よい暖かさが降り注ぐ。あー、眠くなってきた。欠伸を一つすると瞼を下ろした。

「……涼汰」
「ん…?」

話す気になったらしい雅治が口を開いて俺の名前を呼んだ。俺はそれに答える。瞼は閉じたままで。

「…涼汰の恋人のポジションは赤也じゃよのぅ?」

何処か確認するように尋ねた雅治。俺には何故雅治がこんな事を聞くのか全く解らなかった。

「んー…まぁ、そうなる、かな」

俺は赤也が好きだし、赤也も俺を好きって言ってくれたから。グランドからジャッカルを止めろだの何だの声が聞こえる。大方ジャッカルが活躍しているのだろう。肺活量が凄いから、あいつ。

「…じゃあ」

再び口を開いた雅治だったが次の言葉を言おうとしない。不思議に思って瞼を上げて雅治を見ると、不安そうに口を開いたり閉じたりしていた。まるで、言いたいけど言う事が怖いみたいに。

「…大丈夫だから、言ってみ?」

体を起こして雅治に手を伸ばした。雅治の頭には俺の手。抱き締めるなんて事は出来ないけれど撫でるだけならいいだろう。

「…涼汰の…親友のポジションには誰がおる?」
「親友…?」

繰り返した俺の言葉に雅治は静かに頷いた。親友かぁ…。そもそも俺に親友がいるのかさえ疑問だ。気ままに気の向く限り行動してきた俺は端から見ればかなりの自己中な人間だろう。そんな俺を親友と思う奴がいるのだろうか。

「んー…難しい、な…」
「…もし」

再び口を開いた雅治に視線を向ける。俯いて表情は見えない。

「いないんだったら…俺が…貰ってもえぇかのぅ?」

泣きそうな声でそう呟いた雅治は俺を見た。俺には正直何故雅治がそんな事を言うのか解ってない。

「…雅治、どした?」

雅治と向かい合う体勢になって顔を覗き込めば、雅治の瞳はゆらゆらと揺れていた。瞳の揺れた雅治を以前にも見た。確か、俺にしとけ、と告げられた時だ。あの時の雅治は詐欺師ではなく仁王雅治の表情だった。つまりは今も仁王雅治の表情で。以前告げられた時は結果的に断った形になったけど、親友なら喜んで捧げよう。

「じゃ、雅治の親友のポジションも俺にちょうだい?」

グランドから一際大きな笛の音が耳に届いた。どうやら、試合が終わったらしい。

「雅治が俺のを貰ってくれるのに、俺だけが貰わないなんて不公平だろ?」

そう言えば納得したように頷いてくれた。

「じゃ、今日から親友な?」
「…ピヨ」
「そこはイエスだろー」

二人で笑い合う。雅治も俺も笑った。そういえば雅治が笑った表情を暫く見ていないような気がした。でも今は笑ってくれているから深くは考えないようにしよう。


(重要なのは今が楽しければそれでよし)




(涼汰の恋人にはなれないけど)(それに近い場所を貰った)(赤也と幸せになれ)(…涼汰、好いとぅよ)



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