青空から始まる恋 | ナノ


02




「あれ、今日赤也は?」

部活開始10分前。普段なら部員はテニスコートに来てなければいけない時間。いつもだったらちゃんといる赤也が今日は来ていない。

部室、テニスコートを見渡しても赤也は来ていない。蓮二も幸村もいないが二人は委員会の用事があるらしい。…なので事情を知っていそうなのはあと一人。俺は意を決して尋ねた。

「なぁー…真田、今日赤也は?」
「あぁ、英語の課題が終わってなかったらしい。全く…たるんどる!」
「うっせぇーから喋んな」
「涼汰、聞いといてそれはないだろぃ…」

仕方ないよ、ブン太。真田が俺の至近距離で怒鳴って五月蝿いんだから。やっぱり真田に聞いた俺が馬鹿だった。




結局赤也は部活に来なかった。幸村と蓮二は途中でもちゃんと部活に来たけど。来なかったという事は未だに課題が終わってないようだ。まぁ英語が苦手な赤也が苦戦している事は容易に想像出来る。

確か赤也のクラスは2-Dだったっけ?3年になってからは滅多に来ない2年校舎に足を進めた。案の定、D組だけに電気が点いている。そろりと後ろの教室のドア窓から顔を覗かせれば、机に座って必死に問題を解いている赤也がいた。本当は声をかけて邪魔をしないように帰るつもりだったのに、あまりにも必死に問題を解いている赤也を見て父性本能?みたいなものにグッときた。…父性本能って何なんだろうな。見守っていたい、みたいな?言ったのは自分だけど何が何なのか意味が解らなくなった。

「…あれ、涼汰先輩?」

一人でアレコレ悩んでいたら赤也に見付かってしまった。邪魔をしないつもりだったのに。

「よぉ。まだ終わんねぇのか?」
「うっ…そ、それは」

見守る事は潔く諦めて教室に入ると、赤也の隣の奴の席を勝手に拝借して座った。赤也の机の上に広げられているテキストを見れば全くと言っていい程に手を付けていない。

「これ、何時からやってんの…?」
「んーと、確か5時前っスね」
「赤也君、今何時ですか?」
「6時30分過ぎっスね」
「…1時間と30分何してたんだよ?」

仕方がないので手伝ってやる事にした。じゃないと赤也も俺も帰れないから。別に俺は関係ないんだから帰ればいいんだけど、流石に赤也を一人にしておけない。只単に「涼汰せんぱい、てつだってください」って言われただけなんだけど。仕方ない。惚れた弱味ってやつだ。



「じゃあ、ココは?」
「…ねーむ、っスか?」
「前がtheirだろ?…て事は複数系で?」
「ねーむず…?」
「正解。正しくは、namesだけどな」

赤也の英語の発音は何故かカタカナ読みになっている。いや、もう、ひらがな読みだな。…俺からすれば、そんな所も可愛いんだけど。

「じゃあ次の問題…」




時刻7時前。漸く赤也の英語の課題が終わった。問題集2冊、プリント5枚。長かったなぁー…。

「つ、疲れたっス…」

いや、俺の方が倍は疲れてるからね。言おうとしたけど止めておいた。30分であれだけの量の課題を終わらせた俺を褒めてほしい。

夕方が過ぎて、気温が急に低くなったらしい。隣で赤也が手を擦って体温を上げようとしているのが目に入った。なんて、偉そうに実況してみたけど、実際俺も寒かったりする。

「え、涼汰先輩…?」

隣で寒そうにしている赤也の手を取って、俺の左手でぎゅっと握った。寒そうにしていたけど俺の手の方が赤也の手よりも冷たかった。

「あー…寒い、な…」
「…そうっスね」

横目で見た赤也はちょっと微笑んでて、抱き締めたい程に愛しいと思った。



(夕暮れ時の教室)(放課後の教室は少し寒くて、)(君の手はこんなにも暖かい)


<< >>