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「あのー…涼汰先輩?」 「んー…?」 「そろそろ…離して、欲しいんスけど…」 未だに俺達二人は抱き合ったまま。と言っても、俺が赤也を離さないだけなのだけど。離したくない、けど離さないと俺も赤也も帰れない。仕方なく赤也に回していた腕を緩めた。体を離して、俺はある事を思い出した。 「あ、今日の鍵当番!」 「え!?や、ヤバいっスよ!確か今日は幸村部長が…」 「や、やば…!行ってくる!」 赤也の返事を聞かずに俺は走り出した。確か今日の朝… 「最近鍵当番を忘れてる人(特に赤也とブン太、時々仁王と涼汰)がいるからさ、次に誰かが忘れたら…フフッ」 …なんて事があった。「フフッ」って何だよ。スッゲー嫌な予感がするんですが。俺は微妙に雅治と一緒にブラックリスト入りを果たしてるから気を付けなきゃいけないと思っていたのに。見事に忘れていた。 「あー、もう…俺の馬鹿…」 自分に自分でツッコミを入れても何も変わらない。とにかく動かす足を速くした。 部室に着くと電気の灯りが窓から溢れていた。まさか幸村がいるんじゃ、と最悪の想像をしたが、意を決して部室に入った。怒られたらその時だ。悪いのは俺なのだから。…正直言えば面倒くさいけど。 「悪い、幸村。 俺…」 「…如何したのですか、厘財君?」 へ?、と気の抜けた声が口から出る。部室にいたのは幸村ではなくて柳生だった。 「あ「あれ、…柳生…?、と涼汰は言う。違うか?」 「、蓮二まで」 「大方、鍵当番を忘れていたのでしょう」 「う、……」 頼むから幸村には内緒にしてくれ、と頼み込めば蓮二と柳生は解ってくれた。何か事情があったのでしょうから、と柳生は言ってくれたし、蓮二は予想通りだという表情で頷く。物分かりのよい二人で助かった。ガチャリ、と音がして振り返れば赤也が立っていた。そういえば赤也はまだ着替えてなかったんだった。ユニフォーム姿の赤也がドアから顔を覗かせた。 「あれ、幸村部長は…?」 俺と同じ事を尋ねた赤也に事情を説明してやった。 「良かったじゃないスか、涼汰先輩!」 嬉しそうに笑う赤也。あー本当に可愛いと思う俺は病気なのだろうか。 「まぁな…って早く着替えろ。汗引いて風邪引くぞ」 「、ういっス」 急いで着替え始めた赤也を横目に蓮二と柳生の方に向き合った。 「あとどれくらい時間かかる?」 未だにペンをノートに走らせる蓮二に尋ねた。二人は今他校専用の資料作りの真っ只中らしい。 「ふむ…大方30分程度だろう」 「資料作りは時間が掛かりますから…」 「鍵なら俺が閉めるから涼汰は先に帰っても構わない」 「悪いな…じゃあ今度蓮二が当番の時に代わりするから」 素直に蓮二と柳生の気遣いを受け取り、着替え終わった赤也と共に部室を出た。 俺は気づかなかった。二人が作っていた資料の中に知っている名前があった事に。昔の幼なじみの名前がある事に。 (人通りの少ない道を)(手を繋いで歩く)(僕と君)(二人だけで) |
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