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体育倉庫。赤也の教室。屋上。コート。いない、いない、いない。何処にも赤也の姿は見えない。 「くそっ…何処だよっ…?」 俺は走る。好きだよ、赤也。好きなんだ。一度は諦めようとしたけれど無理だった。諦めきれずにまた赤也を好きになった。好きだ、好きだ、好きだ。俺は切原赤也が好きなんだ。男だろうが女だろうが関係ない。赤也が好きなだけ。好きになった人がただ男だっただけ。この気持ちを否定していい。だけど聞いてほしい。聞いてくれるだけでいい。それだけで俺は満足だから。 「見つけた…」 ようやく裏庭に捜していた彼を見つけた。木の影に隠れるように膝を抱えている。深呼吸を一つすると足を動かして赤也の元に歩み寄る。 「…赤也」 びくり、と赤也の肩が震えた。そのままゆっくりと赤也が顔を上げて瞳に俺の姿が映る。瞳が濡れているのは気のせいだろうか。 「…赤也、あのな」 好きだ 俺の本当の気持ちを言うよりも先に赤也の瞳から溢れ出した涙。其れはぼろぼろと。 「あ、赤也…!?」 突然の事態に困惑してしまう。え、俺、何かしたっけ?記憶を遡っても何も思い浮かばない。赤也が泣いている理由を探そうとして、止めた。赤也が泣いているから心臓がキリキリと悲鳴を上げる。苦しい。 「、…せんぱっ!?」 気付けば赤也を抱き締めていた。無意識の行動かもしれない。だけど、好きな人が目の前で泣いていると、こんなにも心臓が痛くて苦しいんだと知った。多分泣いている本人である赤也が一番痛くて苦しいのだろうけど。 「…涼汰先輩は、っ…ズルいっ…ス」 涙声で赤也が俺を責めるように喋る。ズキン、と心臓が痛んだ。 「こ、んなに…すっ、好き…に…させといてっ…仁王先輩っと…付き…合ってるなん、て、」 …え。今、赤也は何て言った?好きにさせといて?誰が、誰を? 「も、…離して……下さい、よっ…!」 俺の腕の中で必死に逃げようと暴れる赤也。やっと気づいた。赤也が勘違いをしている事に。そうさせたのは俺の行動のせいでもあるんだけど。拒絶されてるのは苦しかったけど、それは俺の自業自得。 「っ赤也」 ぐい、と抱き締めている赤也の両頬を俺の両手で包む。突然の事に赤也は驚いて暴れるのを止めた。赤也の濡れた瞳に俺の顔が写っているのが解る。 「ちゃんと聞けよ」 一呼吸置いて口を開いた。 「厘財涼汰は切原赤也が好きだ」 唖然としていた表情の赤也の眉がへの字に歪んだ。再び溢れる涙は赤也のもの。 「う、…嘘なんてっ…いいから、離してっ下さ、い…!」 流石にカチンときた。やっと赤也に想いを伝える事が出来たのに、嘘だって?聞いてくれるだけで良かったんだ。でも、信じてもらえないってのは聞いてもらった内に入らない気がする。こうなったらヤケクソだ。 赤也の唇に俺のを押し付けた。 「…!?」 「っ、これで解ったか、本気だよ」 赤也の瞳に俺の顔が写って見える。あー、俺の顔真っ赤じゃねぇか。こんなんじゃ格好付かねぇや。でも俺の瞳に写る赤也の顔はもっと真っ赤で。とてつもなく愛しい。 「だ、だって…部室で抱き合って…」 「あれは…雅治の最後の頼みだったから」 「れん、練習試合、終わってからも抱き合って…」 練習試合終わってから?発作が出た時の事か?あー、そういえば雅治に抱き締められたな。てか、今思い出せばかなりの確率で雅治に抱き締められてんじゃねぇか、俺。 「あれは、腕引っ張られただけ、てか赤也起きてたのか?」 あの時、と付け加えればしまった、みたいな表情をした赤也。…狸寝入りしてやがったな、コイツ。 「だ、だって…気まずいじゃないですか、二人が抱き合ってる時に起きるって…」 いや、まぁ、それはそうだけど。 「…でも、あれから直ぐに寝たんスよ」 じゃあ、あのキス事件の時の赤也は本当に寝惚けてたらしい。 「そーいえば、さ…」 トン、と赤也の顔の左右に手を置いて、赤也の後ろにある木に体重を掛けた。つまり、赤也は逃げられない状態。 「返事…聞いてねぇんだけど?」 赤也と俺の唇の距離3センチメートル。赤也の顔は真っ赤。真っ赤な顔に涙で潤んだ瞳。俺をノックアウトするには十分だった。あーやべぇ、マジで可愛い。 「あーかーやー…?」 額と額をくっ付けて覗き込む。目をぎゅっと瞑っている赤也。もー何でこんなに可愛いんだ、と一人心の中でツッコミを入れてしまう。先程聞いた言葉から察すれば赤也の好きなヤツってのは…。だけど、直接赤也の口から聞きたいと思う俺はサドなのだろうか。 「俺、…涼汰先輩の事、す、すすす」 「…どもりすぎ」 余計に可愛いくて、赤也の髪に指を絡める。あ、赤也の髪、ふわふわする。その間にも赤也は必死に言葉を紡いでいる。 「す…す、好きっス…!」 「よく出来ました」 もう一度赤也にキスを。 (やっと伝わった想い)(聞いてくれた君)(離したくない)(本気でそう思った) |
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