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「…あ…か、や?」 「っ、すいません…!」 勢い良く赤也は部室から飛び出した。俺は追い掛けようとして、止めた。追い掛けてどうする?誤解を解く?誤解?雅治とは何もない、好きなのは赤也だ、と言うのか?きっと赤也は俺の事をただの先輩としか思っていないのだろう。赤也を追おうとした俺の脚は止まって、部室の床を見つめる。 「…涼汰」 いいのか、と雅治が尋ねる。何が、と俺は返す。本当は解っているのに。 「…涼汰、」 「んだよっ…!」 雅治の表情が驚きの物に変わって、俺は我に返った。 「あ…わ、りぃ…」 最低だ、俺。雅治に八つ当たりするなんて。何もかもぐちゃぐちゃだ。自分でも意味が解らない。何がしたくて、何が大切なのか。 「本当に大切なモノは、失って気付くと知っとったか…?」 「大切なモノ…」 「…失う前に行ってきんしゃい」 ぐい、と俺の背を押して部室の外に押し出した雅治はドアを勢いよく閉めた。俺は部室の外に一人。ぐっ、と手を握り締めると赤也を捜しに走り出した。 好き。好いとぅよ。 お前が男だろうが関係なく俺は厘財涼汰が好きなんだ。 面倒そうにしている瞳も、さりげなく笑った顔も、左右長さが違う髪も、低いあの声色も、優しい瞳も。何もかも好きなんだ。 好きなのに、何故この気持ちに応えてくれない? それは涼汰が切原赤也を好きだから。だからこの恋は叶わない。叶えられない。俺だけを見て欲しいのに見てもらえない。 ポタポタと瞳から流れる水は鬱陶しくて、視界をぼやかして遮る。目から涙を流したのはどれくらい以来だろうか。恐らく久しく流していないはずだ。 「は、…詐欺師失格じゃの…」 自嘲してみたけど、何も変わらない、変えられない。好き、好き、好きなんだ。あの時涼汰の背を押さずに自分の腕の中に閉じ込めておけばよかったのかもしれない。だけど、そんな事をして涼汰を困らせたくなかった。だから、俺は離したんだ後悔していないと言えば嘘になる。けれど、これでよかったんだ。そう自分に言い聞かせた。だけど最後に言わせて、 「っ、……涼汰…好いとぅ…よ、…」 これで最後だから。 (仁王雅治は泣いて)(厘財涼汰は走る)(大切なモノ)(失わない為に) |
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